「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という歌を御存じでしょうか。米沢藩の藩主であった上杉鷹山(1751~1822)が創った歌です。歌の意味を簡単に言いますと「不可能と思っても一生懸命の努力をすれば、物事は実現出来る」というものであります。上杉鷹山は米沢藩の財政立て直しに当たり、この歌によって家来たちを励まし、財政立て直しに成功したのです。私がこの歌を知ったのは約50年以上も前のことです。知るきっかけとなったのは東京五輪の女子バレーボール監督・大松博文氏の著作「なせば成る」でした。今回、何故私が鷹山の歌を想起したかというと、新型コロナウイルス(以下、コロナ)に対する緊急事態宣言を受けて日本人の努力による成果を感じたからです。宣言が出されたとき、外出自粛、ステイホームなどは実際には実現が少し困難かな?と思っていました。しかし日本人は賢明でした。宣言に従い、粛々と出来る範囲で自粛しました。その成果としてコロナの感染爆発は回避され、第一次パンデミックはとりあえず過ぎ去ろうとしています。世界でもコロナによる死亡者が少ない国として注目されています。不可能と思われたことが、国民の自粛行動という努力で実現できたのです。素晴らしいことであると思います。もちろん経済的打撃は極めて強く、特に中小の企業や個人店には極めて深刻な影響があります。断腸の思いがしております。しかし、ここで怯んでは断じてなりません。するべきこと、それは今後コロナに対し油断せず、必死で経済を回し景気の回復をしていくことです。コロナの第二波、第三波は必ずやってきます-。引き続き賢明な行動を皆でしていきたいと思います。このように考えながら外出したところ、いつも仰ぎ見る六甲山は緑の力強い勢いのある姿となっていました。自然はいつも雄大であるとあらためて感じました。

       

写真 いつも定点から仰ぎ見る緑豊かな六甲山

 

兵庫県では緊急事態宣言が解除されました。神戸市のコロナの感染状況を市のホームページでみたところ、コロナ患者さんの発生数は漸減しています。多かったPCR陽性の人は数人ないし0人となっています()。落ち着きつつあることが示されています。小中学校の再開も間近になり、一日だけの登校をする小学生の姿を街で見かけるようになりました。学校再開は即ち集団生活、ということは三密になる可能性を意味します。もちろん学校では子どもさん同士が距離をとること、手洗い・うがいの励行、毎日の検温、分散登校等々の様々な工夫が練られています。ただし工夫を尽くしても相手は目に見えないウイルスです、様々な懸念の完全な払拭は難しいところです。加えて子どもさんではコロナの症状に乏しく無症状の子どもさんもいるでしょう。いわば集団生活がいかなる事態を引き起こすかは全く未知なのであります。誰にも本当のところは分からないのです。いわば不安を抱えての学校再開であります。十分な状況観察が必要です。

そこで学校とコロナについての研究報告はないかと探してみました。するとロンドン大学衛生熱帯医学大学院のロザリン・エッゴ博士による少し安心出来る研究報告をみつけました。同博士によりますと「感染した子どもさんの他人への感染力は大人に比べて弱い可能性がある。それを示す根拠が見つかりはじめた」とのことです。通常、インフルエンザなどの感染症については学校が感染拡大に結びつく場所となります。そのため学校閉鎖は有効な手段となるわけです。しかし博士の報告によると学校はコロナ感染拡大の場所ではないというのです。博士自身もこのことを「驚きである」と表現しており、今後の研究での検討が必要と強調しています。今回の報告に従えば学校再開により大きな感染が起こらないかもしれません。本当ならば少し安堵できますが、油断は禁物です。何故なら自宅に帰った無症状のコロナの子どもさんが、家族、とくに高齢者への感染が危惧されるところです。特に秋以降、寒くなると再びコロナは活発となるでしょう。私たちは第二波、第三波がくるものとして準備を怠らないことが重要です。

ロザリン博士の報告のように学校におけるコロナは感染爆発の舞台にはならないかもしれません。また前回の本ブログでも紹介したように子どもさんのコロナ患者は発症数が少なく、しかも一般に生命予後も良好であります。つまり子どもさんのコロナは高齢者と比べると、流行状況や予後は深刻ではないようです。それは何故でしようか。残念なことに原因については、よく分かっていません。現在、何か分かっていることはないかと思い、子どもさんのコロナに関する最近の研究報告を検討してみました。

すると、子どもさんのコロナのカギとなる可能性のあるアンジオテンシン変換酵素2 (Angiotensin-converting enzyme 2、以下ACE2)という物質についての研究報告を見つけました。ACE2という物質には皆様、馴染みがないことでしょう。私も今回初めて知りました。ただACE2の2を除去したACEという物質ならば、大変有名でご存じの方も多いと思います。ACEは血圧調節をする因子として広く知られており、ACEの作用を阻害することによって血圧を下げることが出来ます。ACEを阻害する薬剤とはACE阻害剤といわれ、まことに有名な血圧降下剤であります。ACE阻害剤は世界中で非常に多くの高血圧患者さんが服用しています。日本でも最もよく処方されている降圧剤であります。このACEの一つがACE2なのです。ところが困ったことにACE2はコロナと結びつくということが分かってきました。つまりACE2はコロナのいわゆるレセプターなのです。コロナはACE2という橋渡しを利用し、ヒトの細胞に侵入し感染していくのです。ところがACE2はヒトの全身の臓器に広く分布しています。ですからコロナは全身の臓器に次々と感染する能力があるのです。当初、コロナは肺炎が注目されていましたが、血管や消化器などの全身臓器に感染をおこすことが問題となっているのは、このためです。ただ子どもさんでは幸い、体に分布しているACE2が少ないのです。そのため子どもさんではコロナが入ってきてもレセプター・橋渡し役のACE2が少ないため、コロナが全身臓器に侵入する可能性が少ないのです。つまり子どもさんはコロナを発症しにくく、軽症にとどまるのです。また他人への感染力も弱いわけです。とはいえ、これも未だ推論の域を出ません。学校再開後の詳細についても現時点では全く分かりません。

引き続き毎日、気を引き締めて予防接種、治療薬が出来るまでは注意して日々の生活を送っていくことが必要です。

 

図 市内でのPCR検査の陽性件数

神戸市の新型コロナウイルス感染症 対策サイトから https://kobe.stopcovid19.jp/