戦車砲は、戦車に搭載された砲の総称。
最初から戦車への搭載用として設計された物もあるが、既成の野砲、高射砲、対戦車砲をもとに車載用に改造された物も多く、反動を軽減するためのマズルブレーキの追加や駐退機の強化、小さく狭い砲塔内からの速射に向くよう閉鎖器を螺旋式や水平鎖栓式から垂直鎖栓式に変更、有毒な火薬燃焼ガスの砲塔内への逆流を防ぐ排煙器の追加などの手が加えられている。
第一次世界大戦において誕生した最初期の戦車の任務は塹壕の突破・歩兵支援であり、そのための榴弾砲を搭載していた。
やがて戦車に対戦車戦闘能力が求められるようになり、初期の戦車の薄い装甲に対処できるだけの小口径の対戦車砲が装備された。
特に搭載力の乏しい軽戦車では、第二次世界大戦初期あたりでも機関銃しか装備していないものも少なくなかった。
第二次世界大戦の直前ごろから戦車同士の戦闘が意識されるようになり、それに応じて戦車砲と装甲はシーソーゲームで強化が進んでいくが、榴弾砲では装甲貫通力が足りず、小口径の対戦車砲では満足な榴弾が撃てないという問題が生じる。
多砲塔戦車に代表されるように複数の砲を搭載したものも現れたが、技術的に問題が大きく成功といえる事例はわずかだった。
所要の武装を別の車両へと振り分けたことで、多種の戦車あるいは突撃砲のような類似の装甲戦闘車両が入り乱れる一因となった。
こうした状況は対戦車砲が口径75mmクラス以上まで大型化し十分な威力の榴弾を撃てるようになったことで、これを装備する攻撃・防御・機動力いずれもバランスが取れた中戦車を基に主力戦車への統合が進むこととなった。
一方、巨大化した対戦車砲や高射砲は急速に対戦車ミサイル、対空ミサイルへの置き換えが進んだため、戦車砲は独自の道を歩んでいくこととなる。
1960年代には榴弾砲と対戦車ミサイル発射管を兼ねたガンランチャーも登場した。
当時のミサイルは大型で、それに合わせたガンランチャーは大きすぎて携行弾数その他の問題からいったんは廃れたが、後にミサイルの小型高性能化、戦車と戦車砲自体の大型化を受けて、9M119やLAHATの様に通常の戦車砲から発射できる対戦車ミサイルが登場している。
以前は弾丸に回転を与えて弾道を安定させるライフル砲が主流だったが、1970年代頃からの第三世代主力戦車以後は、回転により威力の落ちるAPFSDS弾やHEAT弾が対戦車戦闘における主力となったことでライフリングの無い滑腔砲が採用されている。
21世紀初頭の現在では口径120mm前後のものが主流であり、140mm級も開発されているが、発射時の反動を抑えるのに必要な車輌重量や砲弾の重量が大きすぎる事から採用には至っていない。
120mm砲でも砲弾の重さが人力で装填できる限界にきているため、自動装填装置導入に踏み切る戦車が増えている。
7.5cm KwK 42は第二次世界大戦中にドイツのラインメタル・ボルジヒ社 (Rheinmetall-Borsig AG)によって開発された戦車砲である。
派生型としてパンターF型の備砲として採用される予定であった7.5cm KwK 44と、自動装填装置を組み合わせた自動式速射砲とした7.5cm KwK 44/2が存在する。
8.8 cm KwK 36(88mm/56口径砲)ティーガーI重戦車の戦車砲
ラインメタル 120 mm L44は、ドイツのラインメタル社が開発した44口径120mm滑腔戦車砲である。
その規格はイギリスのチャレンジャー1/2戦車とアメリカ合衆国のM1エイブラムスを除き、西側諸国が第3世代及び第3.5世代のほとんどの主力戦車の戦車砲に採用したという実績をもつ。
最初に装備されたのは、西ドイツのレオパルト2戦車であり、1979年から配備が始まっている。
アメリカ合衆国のジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズがM256の名称で、M1A1戦車以降向けにライセンス生産をしており、日本でも日本製鋼所が90式戦車用にライセンス生産を行っている。
NATO軍の主な第2世代主力戦車は、戦車砲にロイヤル・オードナンス L7 105㎜ライフル砲(砲身長51口径)を採用していた。
新型戦車に搭載する、より強力な戦車砲の開発は1965年(一説には1964年)より開始された。
1963年に開始されたアメリカと西ドイツの共同の戦車開発計画であるMBT70計画においても、西ドイツは、120㎜滑腔砲の搭載を主張し、MBT70計画から離脱後に120㎜滑腔砲装備の新型戦車を開発することとした。
ラインメタル 120 mm砲には、成形炸薬弾(HEAT)・多目的対戦車榴弾(HEAT-MP:High Explosive Anti-Tank Multi-Purpose)や装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の各砲弾が使用できる。
また、アメリカ軍が使用する多目的榴弾(MPAT)のM830A1は、近接信管を内部に組み込んでいるため、低空を低速で飛行するヘリコプターなども標的にすることができる。
大型化した砲弾の取り扱いを少しでも容易にするため、発射時に薬莢が金属底部を除いて焼失する燃焼薬莢方式を採用しているが、構造上空包が作れないという欠点があった。
後に訓練・式典用として非燃焼薬莢の空包が提供されるようになったが、訓練用としてはTPFSDS(陸上自衛隊)の様な、一定距離で分解または失速する訓練専用弾が使用されている。
日本の10式戦車の戦車砲として採用されている10式戦車砲は、このL44を参考にして新規開発が行われている。
120mm KE DM53および改良型のDM63はラインメタル 120mm砲用の新式の弾薬であり、従来の44口径型と長砲身55口径型の両方で使用可能である。
ロイヤル・オードナンス L7は、イギリスで開発された105mm戦車砲である。ロイヤル・オードナンス(Royal Ordnance Factories)で開発され、第二次世界大戦後第二世代主力戦車の戦車砲として世界的に広く採用された。
L7は、戦後(冷戦時代)第一世代戦車であるセンチュリオンが搭載していたオードナンス QF 20ポンド砲の後継としてイギリスのロイヤル・オードナンスにおいて、1950年代に開発された。
戦後世代のイギリス戦車の武装としてだけではなく、いわゆる「西側諸国」のほとんどの第二世代主力戦車の戦車砲としても採用され、冷戦の期間中に開発された戦闘車両の標準的な主砲として、また、旧式戦車の戦闘力増強のためのレトロフィットとして使用された。
手動装填砲のみならず、自動装填装置と組み合わせても用いられ、アメリカ陸軍の装輪装甲車であるストライカー装甲車をベースにした機動砲システム(ストライカーMGS)の主武装としても採用されている。
砲口直径105mm、口径長51のライフル砲であり、薬莢を使用する莢砲である。
閉鎖機構には水平鎖栓式が採用されている。
後座長は約29cmで、後座し終わると空薬莢を自動的に排出する。
砲身の中ほどに排煙器が取り付けられているが、これはそれまでの砲口排煙器などに取って代わるもので、L7を特徴付ける機器となっている。