戦闘するデザイン 「F 22 ラプター ステルス戦闘機」 | 戦車兵のブログ

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F-22は、ロッキード・マーティン社とボーイング社が共同開発した、レーダーや赤外線探知装置などからの隠密性が極めて高いステルス戦闘機。

 

愛称は猛禽類の意味のラプター(Raptor)。

 

複数の用途での運用が可能なマルチロール機であり、開発元のロッキード・マーティン社はAir Dominance(航空支配)というキャッチフレーズを用いている。

 

 

アメリカ空軍のF-15C/D制空戦闘機の後継機として、ロッキード・マーティン社が先進戦術戦闘機計画(ATF)に基づいて開発した、第5世代ジェット戦闘機に分類される世界初のステルス戦闘機。

 

 

ミサイルや爆弾の胴体内搭載などによるステルス特性や、ミリタリー推力での音速巡航(スーパークルーズ)能力を特徴とする。

 

 

そのステルス性の高さなどから世界最高クラスの戦闘能力を持つとされる。

 

 

同空軍が運用するF-15E戦闘爆撃機と同じく多用途戦術戦闘機に分類されるが、ステルス性能の追求を優先したため対地兵装の搭載能力は限定的であり、ステルス特性を生かして効果的に対空装備を無力化したり、より空戦能力側に振った能力を生かすことにより、先代のF-15の航空優勢(制空権)を超え戦域全体の支配を目指す航空支配戦闘機(Air Dominance Fighter)と言える。

 

 

冷戦下に開発が行われ、アメリカ空軍の試算では1996年からの調達で最終的には750機の配備を予定していた。

 

しかし、開発の遅れや冷戦の終結に伴って、機種転換訓練向けに2003年から配備が開始され、実戦部隊が運用を開始したのは2005年12月だった。

 

最終的な装備機数は187機(EMD試験機1機を含めた量産準備試験機以降の装備機数。試作機YF-22も含めた総製造数は197機)で、開発費の高騰や生産数の大幅縮小により、一機当たりのコストは約1億5,000万ドルに達している。

 

 

当初は転換訓練などのための複座型としてF-22Bを生産する予定だったが、予算の縮小や地上シミュレータで完全に代替可能とされたため生産されていない。

 

また、F-22をベースとした派生型の開発も計画されていたが、コスト高などから実現していない。

 

冷戦終結後の国防予算削減政策に加えアメリカ合衆国の財政悪化やコストの高騰、さらに米国のサブプライムローンに起因する2007年の世界金融危機も重なったことから、2009年度の調達分により当初予定を大きく繰り上げて生産終了が決定し、2011年末に最終号機である195号機がロールアウト、2012年5月2日に引き渡しが行われた。

 

 

F-22は『ステルス性が高いこと』『アフターバーナーを使用しないでスーパークルーズ(超音速巡航)ができること』『STOL(短距離離着陸)が可能なこと』という3つのSの要求通りの性能を持っている。

 

 

ステルス性を高めることで、相手のレーダーの探知距離を相対的に短くして、相手がこちらを発見する前にこちらのレーダーで相手を発見して、視程外射程(BVR)の空対空ミサイルで攻撃する戦法が可能になり、ドッグファイトに持ち込まれる可能性は低いとされている。

 

開発元のロッキードマーチン社では「先制発見・先制攻撃・先制撃破(First Look・First Shoot・First Kill)」と呼んでいる。さらに、約1,000mという短距離での離陸を可能としている。

 

 

一般的なセミモノコック構造を採用し、素材別の機体重量比はチタニウム6-4 36%、熱硬化性複合素材24%、アルミニウム16%、鋼鉄6%、チタニウム6-22-22 3%、熱可塑性材料1%、その他15%となっている。

 

 

F-22ではF-117やB-2などの攻撃機や爆撃機(戦略爆撃機)と比較して、より高度なオール・アスペクト(全方位)のステルス設計となっている。

 

 

レーダー探知を可能な限り避けるため、レーダー波を吸収するレーダー波吸収素材(RAM)を使用するだけではなく、吸収しきれなかったレーダー波を内部反射と減衰を繰り返して吸収するレーダー波吸収構造(RAS)も採用した。

 

機体表面にはレーダー波吸収素材を含んだ塗料が用いられ、レーダー波は熱へと変換され、これもレーダー反射断面積を低減させる。

 

 

また、キャノピー全体、機体外板の継ぎ目、胴体側面、胴体下面の兵器庫扉の前後などを、三角形を組み合わせた形状とし、レーダー反射を特定の方向へ集中させるようになっており、レーダー反射断面積は0.001-0.01m2程度と推定されている。

 

さらに、空気取入れ口ダクト、コクピット、火器管制レーダーなどの電子機器、兵装プラットフォーム、エンジン排気システムなどに被発見性を低下させる工夫が盛り込まれている。

 

 

ストレーキの採用や主翼と水平尾翼の間に若干外側に傾けた垂直尾翼を配置するという全体構成は、F/A-18などの従来の戦闘機に先例がある。

 

そのため、先進戦術戦闘機計画にて対抗馬となったYF-23に比べ、驚くほど平凡な外形となった。

 

しかしながら細かく見ると、主翼は複雑な六角形の変形デルタ翼であり、前縁後退角は42度、後縁は17度の前進角となっており、さらに先端付近では42度となっている。

 

前縁は3.25度の下反角が、主翼付け根部で0.5度、翼端で-3.1度の捻りがそれぞれ付けられており、前縁には前縁フラップ、後縁には外側に補助翼と内側にフラッペロンを装備している。

 

照射されたレーダー波を特定方向に反射するために機体を構成する角度は可能な限り同一になっている。更には主翼の後縁の若干の前進角と垂直尾翼とエアインテーク部分についてもほぼ同角度の傾斜を持たせている。

 

 

機体の平面と平面を繋ぐ曲面部分は「コンティニュアス・カーバチャー」と呼ばれる連続的な曲率を用いたデザインとするなど、随所にステルス性向上のための高度な設計を施している。

 

1980年代以降の主流ともいえるカナード付きデルタ翼形式を採用せず、あえて時代に逆行したかのような設計になっているのも、ステルス性を優先した結果である。

 

 

水平尾翼は全体が可動する全遊動式であり、垂直尾翼の方向舵は左右の方向舵を内側に向けることでエアブレーキとして機能する。

 

これにより、YF-22では機体背部にエアブレーキを搭載していたのを、F-22ではこれを廃止した。

 

また、燃料タンクは機体前部、及び左右の主翼内部に備わっている。

 

 

キャノピーは厚さ9.5mmのポリカーボネートを2枚重ね合わせて成形されており、F-117と同じように金を蒸着コーティングすることでコックピット内部へのレーダー波の進入を防いでいる。

 

 

機体の部品点数は従来機に比べて非常に少なく、F-15Eの三分の一以下しかない。

 

これは機体構造のフレームピッチが広くなり個々の機体部品が大型化したこと、ステルス化のために機体外板の継ぎ目を減らすことを必要としたことによる。

 

このため、部品製作の工作機械に対する初期投資が大きくなっている。

 

部品点数の少なさは大量生産時の生産効率の向上に寄与するものの生産数が少ないためにその効果は現れず、また、生産設備コストが開発コストと並び機体単価の多くの割合を占めるに至っている。

 

 

固定武装としてゼネラル・エレクトリック社製のM61A2機関砲(弾数480発)を装備している。M61A2はM61A1を軽量・長銃身化した改良型である。

 

機関砲発射口はステルス性を考慮して普段は閉じられており、発射時のみ展開する。

 

そのため、パイロットが引金を引いてから初弾が発射されるまでの時間差は若干増している。

 

 

また、ステルス性をフルに発揮するための運用の場合は、全兵装は胴体の下面1箇所と側面2箇所の計3箇所のウェポンベイ(兵器庫)に搭載される。

 

これによって搭載量は犠牲となるが、空気抵抗を減らすことができるというメリットがある。

 

 

下面ウェポンベイ内には「トラピーズ」(Trapeze:空中ブランコの意)と呼ばれるアームが備わっており、兵装はウェポンベイ内で切り離して自由落下させるのではなく、このアームが伸びることによってウェポンベイ内から機外へと放出される機構となっている。

 

 

左右側面2箇所の短距離空対空ミサイル専用のウェポンベイには、AIM-9M/X(通称サイドワインダー)を搭載する。

 

しかし機体自体の旋回性能が卓越していることと、使用優先順位が低いなどの理由からAIM-9Xの搭載は見送られている。

 

サイドワインダー使用時は扉を開き、シーカーを機体の外に露出させなければならないため、ステルス性は著しく低下する。

 

ちなみにこの時、サイドワインダーは斜め横を向いた状態にセットされる。

 

サイドワインダー収容部後方には、発射時のブラストが機体に当たるのを防ぐため、ブラストを外に逃がすためのディフレクターが装備されている。

 

 

下面ウェポンベイには中距離空対空ミサイルAIM-120A/B(通称アムラーム)を4発、もしくはF-22用に翼とフィンを縮小したAIM-120Cを6発搭載する。

 

ステルス性は低下するものの、主翼下には最大4発のAIM-9M/X、またはAIM-120A/B/Cを搭載可能。

 

 

AIM-120はINSによる中間誘導とアクティブ・レーダー・ホーミングによるファイア・アンド・フォーゲット(Fire-and-forget、いわゆる「撃ち放し能力」)を持ち、72km(AIM-120C型)もの射程を誇る。

 

 

F-22の短距離ミサイル×2と中距離ミサイル×6の計8発という構成は、双方共に4発の計8発だったF-15と比較し、遠距離からミサイルを発射して敵機を撃墜することに比重を置いていることが分かる。

 

これはF-22自身の高いステルス性とレーダー、更には早期警戒管制機や僚機とのデータリンクにより「ファーストルック・ファーストショット・ファーストキル(first look, first shot, first kill:先に見つけ、先に射ち、先に撃墜する)」を意図した構成とされる。

 

 

空対地攻撃用にはGPS/INS誘導方式の統合直接攻撃弾薬(JDAM)GBU-32を搭載する。また、F-22のウェポンベイのサイズを考慮した小直径爆弾(SDB)を開発中である。

 

 

なお、ステルス性を考慮しない運用の場合、翼下に600ガロンの燃料タンクを2本とミサイルを4発装備することができる。

 

空対地装備として対レーダーミサイルのAGM-88、GBU-22の搭載も可能である。また、フェリー飛行時には燃料タンク4本を装備した上に、燃料タンク吊下用パイロンの両側面に1発ずつ、計8発のAIM-120Cを取り付けて輸送することができる(機体の兵装として発射することはできない)。

 

 

高いステルス性とファーストルック・ファーストショット・ファーストキルを前提とした運用・戦闘スタイルから、世界最高水準の戦闘能力を有するとされる。

 

2006年にアラスカで行われた「ノーザン・エッジ演習」においては、延べ144機を「仮想撃墜」し、F-22は1機の損害も出さなかった。

 

 

近年迄においてF-22には実戦経験は無かったが、2014年9月22日夜のシリアにおけるテロ組織ISILの施設空爆作戦にて初めて実戦参加を果たした。

 

ただ、この作戦では誘導爆弾による地上施設への爆撃を行っただけで、対戦闘機戦闘は発生しなかった。

 

 

F-22の投入はISIL関連施設への空爆を黙認しつつも未だ不安定な関係にあるシリア政府軍の防空システムへの警戒という側面があり、F-35が実戦配備されていれば任せられるものだった。

 

 

F-15を超える機動性や旋回性能などから、有視界戦闘(レーダーに頼らず、目視での戦闘)においても卓越した戦闘力を持つ。

 

なお、F-22は味方機同士でリンクされているため識別は可能となるが、他の航空機や地上のレーダーでは捉えにくいためフェリーなどでレーダーを反射しやすいパーツを取り付けて飛行する。

 

 

膨大な演習回数の中には、数少ないながらもF-22が撃墜判定を取られたこともある。

 

アメリカ空軍で行われた模擬空中戦で、電子戦術機EA-18Gに空対空ミサイルAIM-120で撃墜されたと判定された記録がある。

 

このEA-18GにはF-22のキルマークが描かれた。

 

 

また格闘戦となった際には赤外線捜索追尾システムや目視で補足でき、電子装備よりもパイロットの技量が大きく影響するなど機体のコンセプトとは合致しないため、2012年のレッドフラッグにおいてドイツ空軍のユーロファイターに敗北している。

 

このほかにも領空侵犯に対するスクランブルでは対象へ警告と確認のために目視距離まで接近する必要があり、迎撃任務ではアドバンテージが少ないとされる。