最近、全国各地で雪の被害が相次いでいる。24日には鳥取県内の国道などで一時300台以上もの自動車が立ち往生し、陸上自衛隊が出動した。
国防を担う自衛隊が雪なんかで休むことは許されない。特に、札幌市に所在する陸自北部方面総監部の部隊は毎年、厳しい寒波の中で任務を遂行してきた。
仮に雪の中を敵が襲ってきたとしよう。迎え撃つためには戦車や火砲はもちろんのこと、人員や物資の輸送を担う雪上車や機動性に富んだスノーモービル、スキーやかんじきを履いた隊員らが戦場に向かうことになる。
このとき、カムフラージュのため、戦車や車両から隊員1人1人にいたるまで真っ白な格好をしている。
雪国の部隊ならではの装備といえるのは雪上車だ。
雪上車には従来型の「78式」と最新型の「10式」があり、いずれも大型雪上車を略して「大雪(だいせつ)」と呼ばれている。
くしくも北海道の最高峰を擁する大雪山系に通じる名前だ。
78式と10式の違いは大きさにある。78式は全長5・2メートル、幅2・49メートル、高さ2・43メートルで総重量6トンなのに対し、10式は全長約4・7メートル、幅約2・3メートル、高さ約2・4メートルで総重量約5トンと、一回り小さい。
そのため、最大積載量は約1トンで変わらないものの、乗員は78式の12人に対して10式は10人と少なくなっている。
ただ、サイズの小型化によって10式は大型トラックに搭載可能で、トレーラーが必要な78式に比べて運搬しやすい。
最高時速は78式、10式ともに約45キロまで出すことが可能だ。いずれも大原鉄工所が製造したもので、同社は唯一の国産雪上車メーカーとして、南極観測隊が用いる雪上車も製造している。
78式に乗ったことがある陸自隊員によると「乗り心地は悪くないが、キャタピラで進むので、それなりに揺れる」という。それでも新雪やアイスバーンでも雪かきせずに進むことができるメリットは大きい。
また、10式は暖房が効くので78式に比べて快適さが増している。
ちなみに夏場は、キャタピラが傷まないように車体部分を浮かせて保管しているという。
雪上車の他にはスノーモービルもあり、こちらは軽雪上車を略して「軽雪(けいせつ)」と呼ばれる。
乗員2人、最大積載量40キロと輸送能力は小さいが、最高時速は75キロで機動性に富んでいるのが特徴。
こちらは、ヤマハ発動機が製造している。
一方、雪との戦いが死活的に重要なのは航空自衛隊も同じだ。
滑走路が雪に埋もれては航空機が離着陸できず、いざというときの任務に支障をきたしかねない。
そこで、空自も降雪に備えた万全の対策を取っている。
飛行場は広大なので、さまざまな車両を保有し、その数も多い。
例えば北海道千歳市の千歳飛行場は面積が約1059万平方メートルもあり、長さ3千メートルおよび2700メートルの滑走路計2本を持っている。
このため同飛行場には、平成28年4月の時点で、雪を吹き飛ばす放雪車やかき分けるモーターグレーダーを始めとして除雪車両計36台を配備。
小松飛行場(石川県)や三沢飛行場(青森県)といった北国の他の飛行場でも同様だ。
小松飛行場での除雪経験がある空幕関係者は「飛行場は24時間離着陸できるように維持することが前提。雪で滑走路が閉鎖されてはならない」と、除雪の重要性を強調する。
毎年冬になると各部署から人が集められて「除雪隊」が結成され、輪番で24時間雪に備える。
一番大切なのは緊急発進(スクランブル)の体制確保にあり、除雪の際は滑走路と誘導路、そしてスクランブルをかける戦闘機の待機所の3カ所を最優先する。
ここで難しいのは除雪実施の判断だ。先の空幕関係者は「除雪後に雪が薄く残ったまま凍ってしまうと、飛行機がスリップしやすくなったり、タイヤの跡が固まって路面状況が悪くなり、下手したら離着陸できなくなる」と話す。
そのため、雪が降ったらすぐに除雪するのではなく、例えば日射で溶けそうな場合は放っておくこともあるという。
かつて欧州制覇を目指した皇帝ナポレオン・ボナパルトは、ロシアの寒波に進撃を止められた。
時と場合により、雪は戦闘部隊にとって本来の敵以上に厄介な存在となりうる。
この時期、各地から届く雪の便りを聞いたとき、たまには現地で格闘している自衛隊員らの苦労に思いをはせても良いだろう。(政治部 小野晋史)
(産経ニュース)
78式に乗ったことがある陸自隊員によると「乗り心地は悪くないが、キャタピラで進むので、それなりに揺れる」という話が紹介されているが操縦席はともかく後部座席に乗っていると吹っ飛ばされるくらい危険なので戦車より乗り心地は良くないよ。
よく取材する人達を乗せることもあるがゆっくり安全運転で道路を走るのでそういう思いをすることは少ないだろうけどね。
考えて見たら駐屯地祭でも大雪とか軽雪とか展示されることもあるが乗ることはなかなかないよね。