カサンドラ・クロス(1976/伊・英・西独合作)
監督:ジョルジ・パン・コスマトス出演:リチャード・ハリス、バート・ランカスター、ソフィア・ローレン、マーティン・シーン、エヴァ・ガードナー、イングリッド・チューリン、ジョン・フィリップ・ロー、リー・ストラスバーグ、O・J・シンプソン、アン・ターケル、レイモンド・ラブロック、アリダ・ヴァリ他音楽:ジェリー・ゴールドスミスジュネーブの国際保健機構にテロリストが侵入し、その中にあるアメリカの生物研究施設を爆破しようとする。しかし警備員との銃撃戦の末爆破は失敗、テロリストはアメリカが秘密裏に研究中であった病原菌の入った容器を破壊してしまい、病原菌を浴びてしまう。逃げ延びたテロリストの一人は、ストックホルムとジュネーブ間を走る大陸横断列車に乗り込み逃亡を図るが、アメリカ情報部マッケンジー(ランカスター)達はそれを察知。特殊部隊を出して列車ごと封鎖し、列車に乗り合わせていた医師・チェンバレン(ハリス)に逃亡犯を探し出す様依頼をする。逃亡犯は発見されるが、その頃にはすでに他の乗客に感染が拡がっていた。マッケンジー達アメリカ情報部は、秘密裏に開発していた病原菌の存在が世に知られることを恐れ、列車を30年以上使われていない壊れかけの鉄橋“カサンドラ・クロス”に向かわせ、乗客全員を列車ごと谷底へ落とし、この事故を無かったことする最悪の決断を下した。乗客のひとり・ユダヤ人のキャプラン(ストラスバーグ)から、列車の向かっている先がカサンドラ・クロスであり、アメリカ情報部が列車を転覆させてしまおうという目論みであることを聞かされたチェンバレンは、同じ列車に乗っていた元妻で作家のジェニファー(ローレン)や麻薬捜査官ハリー(シンプソン)達と協力し、特殊部隊と対峙して乗客を救おうとする。しかし彼らの奮闘空しく、列車は刻一刻とカサンドラ・クロスに近づいていく・・・。う~ん、ただただ懐かしい「カサンドラ・クロス」のパンフレット。クライマックスシーンが堂々と、ど真ん中に載っかっているところがまたいいんです。76年末公開の、いわゆる正月映画です。この年の正月映画は、他にも12月公開に「キングコング」「ダーティハリー3」、翌77年1月公開に「激走5000キロ」があり、「カサンドラ・クロス」を含め、これらを全部ロードショー公開時に観たのでした。そんな当時を思い返してみると、おっさんになって何かと動くことをおっくうに思う今とは違って<当時はえらいアクティブやったんやなあ>と、非常に感慨深い思いがありますね。さて映画の方ですが、公開当時の76年はパニック映画人気がまだまだ根強い時代でしたので、宣伝もパニック映画みたいな感じだったと記憶していますが、内容的にはサスペンスアクションといった方がいいかと思います。余談ですが、冷静に考えてみると、70年代に一代ブームとなったこの<パニック映画>なるジャンルも、当時は非常に曖昧なジャンル分けだったみたいで、正当なパニック映画(いわゆるディザスター映画)といえば、「大空港」「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」「大地震」そして「エアポート75」くらいまでではなかったでしょうか。当時、ブームに乗っかってパニック映画みたいな扱いだった「ジャガーノート」や「ヒンデンブルグ」、「パニック・イン・スタジアム」などは、どう見てもパニック映画というよりもサスペンス映画であり、今回ご紹介している「カサンドラ・クロス」も、どちらかというとこちらの仲間に入ると思います(余談の余談ですが、「ジャガーノート」は大傑作ですね)。「ジョーズ」や「オルカ」や「グリズリー」に至っては<動物パニック映画>とかいう、あるのか無いのか分からないジャンルで紹介されていましたね。それはさて置き、この「カサンドラ・クロス」という映画は、当時少年だった私には、結構硬派なイメージの映画でした。その理由は、のっけからテロリストが登場すること。そしてそのテロリストが何か“ヤバいもの”を浴びてそのまま逃亡し、何にも関係ない人たちを不幸に巻き込んでしてしまうという展開であること。そしてその何も関係ない人たちを、国家の重要な秘密を守るために、主人公もろとも抹殺してしまおうとすること。それに加えて、第二次大戦の暗い時代の影が、少なからず垣間見えていること。それは、今まで私が見てきた娯楽映画にはあまり無かった展開だったのです。銃撃戦の末、病原菌を浴びてしまうテロリスト。このあと、逃げ延びた左側の男が列車に乗り込んだために手に汗握る展開のストーリーが始まるのです。しかも、何百人という人たちを抹殺してしまおうと指揮をとるのが、名作「大空港」で正義の主人公だった我らがヒーロー(超個人的にですが)、バート・ランカスターだった!!・・・これはちょっとショックでした(国家の秘密を守るために、上からの命令で仕方なく指揮しているという苦悩する役どころではありましたが)。荒野の平原児、アメリカの良心とも言えるランカスター様が、今回は大量殺人の指揮をとることになるとは・・・。たとえ立場的に仕方がなかった役どころとしてもちょっとだけ悲しくなりました。「ポセイドン・アドベンチャー」や「大地震」は、どうにも避けられない天災が原因でしたし、「タワーリング~」も最初の原因は人災と言えますが、そのあとの展開は人為的ではないため、この「カサンドラ・クロス」の主人公たちの降って湧いたような“巻き込まれ型の展開”は、この時代の一連のパニック映画の中で、一番不幸なストーリー展開ではなかったかと思います。そんなイメージがあるとはいえ、そこはやはり娯楽映画。最初から最後までハラハラドキドキでかなり楽しめました。スリル、スピード、サスペンス、そしてアクションと、色んな要素が盛り込まれており、観ていて非常に<お得感>がある映画でした。映画の舞台となる大陸横断列車。ほとんどこの列車の中でストーリーが展開されるのです。逃げ遅れたテロリストは、アメリカ情報部に捕らえられます。そこで治療の研究がなされますが、その甲斐も無く死んでしまいます。しかも当時の流行だったオールスターキャスト!!古き良きハリウッドでは、超大作映画でよく見られましたが、70年代前後からは「大空港」から本格的に復活したと言えるこの<オールスターキャスト>なるコトバの響き・・・何といういい響きでしょうか。実質的な主役はリチャード・ハリスですが、そのほかにも別格の大女優エヴァ・ガードナーをはじめ、ヨーロッパ映画のスターであるソフィア・ローレン、イングリッド・チューリンやアリダ・ヴァリ、アクターズ・スタジオの指導者リー・ストラスバーグ、俳優としてアブラが乗りきっていた頃のO・J・シンプソンなど、非常にバラエティに富んだ超豪華版オールスターキャストでした。実質的な主役だったリチャード・ハリス。初代ダンブルドア校長の若き日のお姿です。この頃はちょっと人を喰ったような性格の正義漢役が多かったですね。映画に華を添えるソフィア・ローレン。この頃は<ラッタッタ~>の時期でしょうか(古い)。「大地震」にも出演していた大女優エヴァ・ガードナー。・・・貫禄充分です。非常にお若いマーティン・シーン。ガードナー相手のジゴロ(死語?)が良く似合ってました。在りし日の(亡くなっておりませんが)O・J・シンプソン。あの事件さえ無ければ・・・非常に惜しいですね。アクターズスタジオの創始者、リー・ストラスバーグも、映画に厚みを加えています。最初に観た当時は存じあげなかったのですが、この映画の中では端役中の端役だった乗客のおばさん役、往年の大女優アリダ・ヴァリ。セルズニックの映画などでは<ヴァリ>という名前でクレジットされていたと記憶しています。これまた意外な方が・・・ジョン・フィリップ・ロー。「バーバレラ」の頃と変わらないですね。気になったのは、ソフィア・ローレンが冒頭のタイトルロールに一番最初にクレジットされていたことです。これはあとで知ったことですが、この映画のプロデューサーがローレンさんの夫であるカルロ・ポンティなので、至極当然なことでしたね(大人の事情、というやつでしょうか)。ローレンさんのサービスショット(らしき)シーンもあります。またまた余談ですが、そういえば小学生の頃からテレビの映画劇場で何度も観たカルロ・ポンティ製作の戦争スパイアクション映画「クロスボー作戦」も、全編出ずっぱりのゴリゴリの主役ジョージ・ペパードよりもソフィア・ローレンの方が先にクレジットされていたと記憶しています(←記憶違いかも知れませんが)。どうしても余談の方に話が流れてしまいがちですが、映画はどんど佳境に向かって進んでいきます。列車内をウロつき回るテロリスト。そうしているうちに他の乗客に病原菌をバラまいてしまいます。アクション映画のマストアイテム、ヘリコプター登場!!ヘリコプターが出ると出ないとでは、おもしろ味がかなり違いますねえ。途中の駅で、列車は完全に情報部側によって封鎖されてしまいます。このあたりから、かなり雲行きが怪しくなってきます。そして防護服を着込んだ怪しいヤツらが乗り込んできて、完全に列車を掌握してしまいます。危うし!リチャード・ハリス!そうこうしているうちに、乗客に病原菌が蔓延していきます。当時リチャード・ハリスの本当の奥さん、アン・ターケル(右)も病魔に冒されてしまいます。危うし!リチャード!・・・。列車を転覆させる計画を知り、必死で止める医師・エレナ(チューリン)。しかしエレナの訴えも無視され、列車は刻一刻と壊れた鉄橋<カサンドラ・クロス>へ一直線に向かって行きます。そうはさせまいと、乗客の命を守ろうと奮闘するリチャード・ハリスたち。ハラハラ・ドキドキ・・・。列車の爆発などもあり、結構派手な展開になっていきます。いよいよ列車は<カサンドラ・クロス>に差し掛かったっ!このあとどうなるのかっ!音楽はジェリー・ゴールドスミス。いつものごとく非常に美しいメインタイトル曲ですが、当時関光夫さんのラジオ番組等でよくかかっていたのは、映画で実際にタイトルロールでかかっていたものとは別バージョンの<愛のテーマ>でした。これがまた美しい!!(ちょっとイタリア映画っぽい味付けがなされているところが、またいいんです)。■youtubeにあったサントラ盤<愛のテーマ>です。 ↓ ↓ ↓https://www.youtube.com/watch?v=0mrzHORu3Zg■ちなみに、映画のタイトルバックもありました(FULL MOVIEですが)。こちらも物悲しくていいカンジです。 ↓ ↓ ↓https://www.youtube.com/watch?v=eS6gLUSlWlY私がいつも通っていた映画館では上映の合間(あいま)に、地元のレコード屋さんの提供で上映中の映画のサントラレコードをかけていたのですが、その時かかっていた<愛のテーマ>を聴いて、聴き惚れてしまいました。そしていつものごとく映画を観たあと、すぐにサントラレコードを買いました。ちなみに、ウィキペディアによるとロードショー公開当時、一部地域では「ラストコンサート」と同時上映されていたそうです。すっかり忘れていましたが、そういえば私も「ラストコンサート」といっしょに観たような気がします。一本分の料金で名作映画を二本も観ることが出来たわけですね(「カプリコン1」と「オルカ」の同時上映も最高でしたが)。非常に<お得感>のある、いい時代でありました。