前回はVCHアンテナの動作について巷で言われていることをざっくりとまとめてみました。ではさっそく、アンテナシミュレータ MMANA(GAL版) を使って、動作の解析をしてみます。
まず、某アマチュア無線雑誌に載っていた寸法をそのまま入れて計算してみました。
なお、以後のすべての計算は周波数7.05MHz(波長42.55m)に対して行っています。
[ネットで入手した原寸とほぼ同一の値, ただしAはコイル部分の長さを含む]
(A)1.6m (L)38μH (B)3.4m (C)5.2m
その結果、インピーダンスは R=29Ω, リアクタンス X=-293Ω で SWR=61.3 と、全くマッチしていません。これでは話にならないので、まずは基本となる垂直ダイポール(VDP)の形にして、動くモデルを模索してみます。
リアクタンス分が負の値ということは、容量性、つまり波長に対して電気長が短いことを意味しますから、
1)エレメント長のどこかを長くする
2)延長コイルの位置を中央寄りにずらす
3)コイルのインダクタンスを大きくする
のいずれかで対応しなければなりません。ここでは、紹介記事を読んで製作する側のことを考えて、最も調整が簡単な3で対処してみます。すると、34μHから40.8μHへ変更するだけで、R=31.5, X=-2.1, SWR=1.59 とまずまずな結果を得ることができました。
[VDP型にして自由空間でLを最適化]
(A)1.6m (L)40.8μH (B)3.4m (C)5.2m
このとき、Lのすぐ下に給電点を持ってきましたので、ここから給電点を下にずらしていけばどこかに50Ωの点がある筈です。そこがこのVDPの"マッチングポイント"になります。
実際に、給電点を0.5mずつ下へ下げていくとRが変化し、原点から1.5mで約50Ωになりました。
(No.21:元の位置(Lのすぐ下)-No.28: 原点(Lから3.4m下))
原点(VCHアンテナの給電点)よりかなり上でマッチングしてしまいましたが、まだ地上エレメントを折り曲げていないことなどからズレが生じたものと考えられますので、ここでは
・DPの片側エレメントの短縮により、電気長"中央部"付近の給電点インピーダンスは75Ωより大きく下がっている(約31Ω)
・給電点をエレメント端へずらしていくと、給電点インピーダンスは大きくなる
という様子が理解できたことにします。
(補足)電流分布の様子からもわかるように、Lより下のエレメント長(B)+(C)=8.6m は1/4λ (=10.6m) より不足しているため、Lの一部が下部エレメントの延長コイルとしても機能しているようです。従って、Lのすぐ下の点は厳密には電気長中央部ではなく、既にエレメント端へ少しズレた位置になっていると思われます。
では次に、地上エレメントを折り曲げてみます。
[VCH型にして再計算]
(A)1.6m (L)40.8μH (B)3.4m (C)5.2m
まずはLの値を40.8μHのままにして折り曲げたところ、自由空間では R=53.7, X=-30.6, SWR=1.8 と、まっすぐな時(上の表のNo.28: R=67.3, X=-9.3, SWR=1.4) に比べてRは下がって50Ωに近づきましたがXが悪化しました。
さらにこのまま完全地面を配置します。地面の影響がほぼ無い、地上高 5m からだんだんと地面に近づけて行くと、Rは大きくなり、Xも大きくなって容量性から誘導性へと変化しました。地上高1.6mではR=62.3, X=0.1となり、SWR=1.25 とほぼマッチングしている状態が得られました。この様子から、地上エレメント(C)を配置する場合は、地面との位置関係もマッチングに大きな影響を与えることが予想されます。実際の使用状況に近い地上高0.1mでは、R=67.8, X=158.6, SWR=9.41 と、お世辞にもマッチングしているとは言えない値になりました。
この時点ではXが大きく、しかも誘導性に変化していましたので、再びLの値を調整したところ、L=39μHにて、R=51.9, X=-3.5, SWR=1.08 と非常に良い結果を得ることができました。この時の最終的な入力値とアンテナの指向性は次の図の通りです。
[VCH型, 完全地面/地上高0.1m]
(A)1.6m (L)39μH (B)3.4m (C)5.2m
エレメントの電流分布
指向性
以上のことから、VCHアンテナの動作原理は
・短縮VDPを折り曲げたような状況になっているが地面の影響は大きい
・折り曲げた点を給電点とすることで50Ωの給電にうまくマッチするように設計されている
ことがわかりました。
また、実際に作ったモノのマッチング調整は、まず延長コイル L のインダクタンスを変更するのが簡単なようです。上にも述べたように、Lは上部エレメントのみならず下部エレメントの短縮にも効いていますので、片側のエレメントだけで調整しようとすると、リアクタンス分を大きく変えなければならない場合はエレメント長の大幅な変更となり、その結果、給電点も相対的に大きく動いてしまうので純抵抗分Rにも影響します。この関係をエレメント調整だけで収束させるのは難しい場合があると思われます。特に釣り竿で設置する場合、釣り竿の長さは変えられないので上部エレメントの延長は難しく、Lを増やすのが手っ取り早いと思います。
以上のように、解析の結果VCHアンテナはアンテナの理論通りに動作しており、上部がかなり短縮されているにもかかわらず対DPの相対利得が-1dB程度と良好な性能を持っていることがわかりました。
ただし、一般に言われているような、「上部の(A)+Lが1/4λ、下部の(B)+(C)が1/4λ相当」という"割り当て"は若干語弊があるようです。また、電流分布の一番大きいところにLを配置しているので、Lの損失がなるべく小さくなるように、すなわち、LのQ値をなるべく大きくするのが効率を下げないポイントになりそうです。
次はさらに、同じ長さの電気長1/4λ垂直アンテナと比べてどうなのか、もっと効率の良い配置はあるのか、といったことを解析してみたいと思います。
(次回へ続く)