革命小説【新世界創造 未来編】 第4部 最終話【親子】 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

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混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 その日のキョウイチは久しぶりに【キョウイチの部屋】で人生相談に乗っていた。

 

 
 そこそこ有名だった【足立区の救い主】時代とはちがい、今やキョウイチは反体制のシンボル、新生日本の期待の星として国民的ヒーローとなっていた。そのため人生相談の依頼件数は桁違いのものとなり、身がもたないという理由から人生相談は一時休止にしていたのである。

 

 
 しかし、有名な団体、組織などから、新生日本革命にかかわりがあるような深い相談内容を持ちかけられた場合のみ、キョウイチは話を聞くことにしていた。

 

 
 この日、キョウイチのもとにやってきたのは、自由義絶法に疑問を抱く人々の団体【サイレント・ブルー】の代表オオスギ夫妻だった。椅子に座る夫のシュン・オオスギは、目の前のキョウイチに暗い表情でいった。

 

 
 「……私は親として、本当に情けなく、恥ずかしい限りなのですが……成績が伸びず、知能が高いといえない自分の子供が、心底いやになる瞬間というのがあるんです」

 

 
 「はあ、それで?」と、キョウイチ。

 

 
 「自慢するわけではありませんが、私は子供の頃からエリートの道を歩み続け、東大卒業後も大企業に入って成功をおさめました」オオスギはいった。「そんな私の子供なのだから、きっと頭脳明晰で、私の同じような安定したエリートの人生を歩んでくれるのだろうと思っていたんです。しかし蓋を開けてみれば勉強も運動もいまいちできず、これといった才能も能力も持っていないのです。さらに今のままでは2流とされる大学にすら行けるかどうかわからないのです」

 

 
 キョウイチは表情を渋くした。

 

 
 「そんな子供……息子なんですが、嫌いというか憎いというか、なぜもっと優秀な頭脳の子供が生まれなかったんだと悔しい気持ちでいっぱいなんです」オオスギは握りこぶしで自分の膝をたたきながらいった。「そんなとき知り合いに、自由気絶法を勧められたんです」

 

 
 「ああ、オサム・クマザキ総裁が考えたっていうあれ?」

 

 
 「そうです。そして本当にお恥ずかしながら……真剣に自由義絶法を使って子供と縁を切ろうか迷ってしまったんです」オオスギはいった。「しかし、私は迷いに迷った末に、思いとどまりました。どんなに勉強ができなかろうと、たとえなんの能力もなかろうと、自分の子供であることに変わりはありません。自分の頭の悪い子供と縁を切ってほかの頭のいい子供を養子にもらうなど、私にはどうしても選択することはできませんでした……」

 

 
 目を閉じて黙考にふけるキョウイチ。ややたってから口を開いた。

 

 
 「……ふむふむ、よくわかりますよ。親の自分はこんなに頭が良くて立派なのに、なぜ子供は頭が悪い愚人なんだ!?っていうの。でもねぇ、なにも恥ずかしいことでも情けないことでもありません。人間という生き物である以上、誰でも少なからず胸に湧く感情だと思いますよ」

 

 
 「キョウ様にそういってもらえると、心がいくらか楽なものになります」そういってオオスギは軽く頭を下げた。妻はさきほどからハンカチで涙をおさえている。

 

 
 「で、ボキになにをしてほしいんですか?」

 

 
 そう訊くキョウイチに、オオスギは姿勢を正していった。

 

 
 「教えてほしいのです。利発とはいえない自分の子供を心から愛せるようになれる方法を」

 

 
 「私たちの団体【サイレント・ブルー】には、自分の子供を愛せずに苦しんでいる親が厖大にいます」オオスギの妻が涙声でいった。「彼らは毎日自己嫌悪に心を痛めています。子供を愛したいが愛せない、そんな醜い自分が許せない……この葛藤にもがき苦しんでいるんです」

 

 
 「キョウ様なら究極の答えを導き出してくれると思ったんです。このとおりです。我々に子供を愛せるようになれる方法を教えてください!」

 

 
 ゆっくりと腕を組むキョウイチ。そしていった。

 

 
 「……場所と日時は?」

 

 
 「え?」と、オオスギ夫妻。

 

 

 「場所と日時を指定してください。頭のいいエリートの親がバカなおちこぼれの子供を愛せるようになれる方法を教えてあげますから」

 

 
 「ほ、本当ですかぁ!?」全身に歓喜を走らせるオオスギ。

 

 
 「ば、場所は、横浜アリーナを用意させていただきます!」オオスギの妻が感嘆に震えながらいった。

 

 
 そのとき、背後からオーボエの音色のような美声が響いてきた。

 

 
 「日本武道館の次は横浜アリーナかい?」クラウディアだった。「さすがの私もちょっとキョウイチに嫉妬しちゃうねぇ」

 

 
 「やめてよクラウディアばあちゃん、ボキだってこう見えて、毎回そこそこ緊張はしているんだから……」

 

 
 クラウディアはそういうキョウイチに、ぞっとするほど魅力的な笑みを小さく浮かべた。

 

 
 ━━横浜アリーナでの【キョウイチ法話】当日。横浜アリーナ周辺は厳戒態勢が敷かれていた。

 

 
 【ロスト・イン・ザ・ダークネス】によって制定された法律・自由義絶法━━それに反対する団体のイベントに反体制のシンボルであるキョウイチがゲスト出演するのだ。横浜アリーナは【ロスト・イン・ザ・ダークネス】の武装警察組織に襲撃されるのでは?と懸念したガンジは、【アーバン・ジャングル】のメンバー2000人を総動員して見張りについた。

 

 
 そんな【アーバン・ジャングル】に触発されてか、日本中のゲリラ組織が横浜アリーナに大集結。さらにはゲリラ組織などには所属していない何十万人もの一般人も見張りに参加し、なんとしてでも今回のキョウイチ法話も成功させようと日本中が一丸となっていた。

 

 
 特にガンジにとって今回のキョウイチ法話は特別な意味合いを持っていた。ガンジの公憤の理由はいろいろとあるが、最大の理由が自由義絶法だったのだ。

 

 
 ガンジは自分を捨てた親を憎んではいなかった。親にも親なりの苦悩があったのだろう、と。

 

 
 しかし、いつか再会して抱擁をかわしたいと思っていた。

 

 
 それを可能にしてくれる力を持つ唯一の存在がキョウイチなのだ━━ガンジは何年も前から日本中の誰よりもそう確信していた。

 

 
 そして、ついに、横浜アリーナでのキョウイチ法話がはじまる━━。

 

 
 「あーあー、マイクは故障していませんか?大丈夫?」キョウイチが用意された台に設置されたマイクに語りかける。その様子は縦横100メートルほどの巨大スクリーンに映し出されていた。「うわぁ、ボキの顔がこんなアップで……ちょっと照れるねぇ。ボキは綺羅飄介のようなルックスの持ち主じゃないので……」

 

 
 そんなキョウイチに横浜アリーナ中があたたい笑いに包まれた。

 

 
 世紀末の救世主キョウイチ━━ついに彼がこれから、頭の悪い子供を愛せないすべての親たちを救済する方法を説いてくれるのだ。もちろんこの模様もインターネットで生中継されていた。

  

 
 「では、もったいぶったナンセンスな前置きは嫌いなたちなんで、さっそく本題に入りたいと思います」

 

 
 キョウイチの言葉に横浜アリーナ中から轟然たる歓声が沸き起こった。

 

 
 「みなさんご存知のように、この国には自由義絶法なる冷血な法律があります。まあ、人によってはとてもありがたい法律みたいですが……。その自由義絶法を利用する人の大半が、優秀な自分とは異なり凡愚に生まれた子供を嫌悪する親たちです」

 

 
 横浜アリーナ中がキョウイチ法話に耳を傾ける。

 

 
 「誤解を恐れずにいってしまうと、そうした親たちを責めることはできません。自分も凡愚な人間だったならあきらめもつきますが、自分が一般的に優秀とされる成績、職種の人間だった場合、自分の子供もきっと自分と同じような優秀な人間にちがいない━━そうした期待を抱くのは普通のことです」キョウイチはいった。「しかし、親の才能を必ず子供が受け継ぐとは限りません。親が頭脳明晰な高学歴エリートでも、子供もまったくそのようにはなかなかなれないものです。そして期待に応えてくれなかった子供に嫌悪感が湧き、愛することができなくなって苦悩の沼に陥る……そうした親がゴミのようにいるんだと思います」

固唾をのんで見守る【サイレント・ブルー】のメンバーたち。

 

 
 「でもですねぇ、優秀な親とは対照的に凡愚な子供が生まれても、それはそれで全然自然な現象なんですよ」

 

 
 横浜アリーナ中がざわめき出す。

 

 
 「この世の中、バカばっかりでは困りますが、天才ばっかりでもバランスは崩れるんですよ」キョウイチはいった。「たとえば1000人の村があって、1000人全員がIQ150で、1000人全員が医者になってしまったらどうなります?農業をしてくれる人も、工事をしてくれる人も、ゴミを処分してくれる人もいなくなって、村はあっという間に滅んでしまいます。もっといってしまえば、医者が手術で使うメスとかは誰が作るんですか?医者がつくるわけではないでしょ?メスをつくる職人さんがいるはずです。このように、人間にはそれぞれに役目があり、それぞれの役目をこなしていればいいんですよ」

 

 
 ざわめきが激しさを増す。

 

 
 「そのようなバランスのとれた社会を築くために、IQの高い人とIQの低い人が生まれてくるんです」キョウイチはいった。「もしも生まれてくる人全員がIQ200の天才だったら、『オレが医者になるんだ!』『いいや、私のほうが医者に向いている!』とみんないい出し、メスをつくる職人になる人はあらわれないでしょう。そのためIQの低い人も必要だということなのです」

 

 
 横浜アリーナ中から感動の歓声があがる。

 

 
 「ここまでいえばもうわかったと思いますが、IQが低い、知能が低い、勉強ができない、成績が悪いというのは、なんにも悪いことではないんです。その人には【メスをつくる職人として医者を助ける】という使命が天から与えられているんです。一方、知能の高い人たちも【自分を助けてくれている人たちの怪我や病気を治す】という使命を天から与えられているんです。どちらが偉いわけでもどちらすぐれているわけでもありません。お互いに尊敬しあい、感謝しあいながら世の中を築いていけばいいだけのことなのです」

 

 
 横浜アリーナが、水をうったように静まり返った。

 

 
 「勉強があまり得意じゃないお子さんを嫌わないでください。成績がふるわないお子さんを叱らないでください。良くて3流の大学くらいにしかいけないお子さんに失望しないでください。そのお子さんたちにも知能の低い人間なりにそれぞれに使命があり、社会が機能して人類が繁栄していくためには、ぜったいに欠かすことができない存在なのです」キョウイチはいった。「たしかにあなたたちのお子さんは、親のあなたに近い人生は歩めないかもしれません。しかし、この世の中にエリートも非エリートも、職業の優劣も実はまったく存在しないのです。知能の高い親の自分とは対照的に知能の低い人間として生まれたあなたのお子さんは、知能の高い人間であるあなたのような人たちを影から支える仕事につく使命を天から授かって生まれてきたのです。そんな子供を嫌う、恥じるなど言語道断。自分のお子さんに誇りを持っていただきたいです。以上です」

 

 
 次の瞬間だった。横浜アリーナ中から鼓膜が破れるかのような、すさまじい拍手と歓声の嵐が巻き起こったのは。

 

 
 法話を終えたキョウイチに向けて贈られる万雷の拍手と歓声の雨あられ。それは1分たっても2分たってもやむことはなく、約30分間にわたって続くこととなった。

 

 
 そんな中、【サイレント・ブルー】の代表であるオオスギ夫妻は、感涙しながらお互いの体を強く抱きしめあっていた。

 

 
 一方、横浜アリーナの外からパソコンで法話をチェックしていたガンジは、人目をはばからずにおいおいと号泣するだけだった。

 

 
 キョウ様は、ついに、本当にやってくれた。知能の低い子供を嫌う親が子供を捨てるような世の中に終止符を打つ奇跡を……!

 

 
 この1ヵ月後、ガンジのもとに実の親が訪れ、ガンジに土下座をして謝罪したと伝えられている……。

 

 
 横浜アリーナからやさしく微笑みながら出てくる救世主キョウイチ。その姿に日本中が爆発的な大歓声をあげた。

 

 
 しかし、キョウイチは軽く手をあげて応えただけで、【アーバン・ジャングル】のボディガードたちに四方を囲まれながら帰宅の途についた。

 

 
 ……この翌日、ついにあの組織が本格的に動きはじめることとなった……。

 

 

 

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