ブッダの言葉
君に、こんな昔の話をしてみよう。
その昔、ヴェーデーヒカーという名のお金持ちの女性がいた。彼女には「温和で優しくて冷静な人」という良い評判があったという。
彼女は、カーリーという名のメイドさんを雇っていた。カーリーは、ある日ふと、こんなことを思った。
「私のご主人さまは優しいって評判だけれど、心の奥には怒りがあっても、表面には見せないだけなのか、心のどこにも怒りがない清らかな方なのか、どちらなのかしら。試してみましょう」
そこでカーリーは、わざと遅い時間に起きて、たいへん遅刻して出仕した。
すると「遅刻するとは、どういうことですか!」と、ヴェーデーヒカーは怒りをむき出しにしたので、「なんでもございません、ご主人様」とカーリーが答えたところ、「遅刻しておきながら、なんでもないなんて、生意気な」とさらに怒り、鉄棒でカーリーの頭を打ち据えた。カーリーの頭からは、血がダラダラと流れた。
この実験の結果、ヴェーデーヒカーは不快な状況や不快な言葉づかいに遭わず快適でいられるときだけ優しくしていられただけだと判明した。
君がもし、不快な状況下でも怒らずにすむならば、真に「温和で優しく冷静な人」と呼ばれるにふさわしい。
弥勒菩薩の真説
不快な状況下に置かれて怒りに襲われるのは普通のことである。怒りを無理に抑制することはない。不快な状況下を生み出した人間に罪があるのであり、その人間に制裁を下して怒りや不快感をなくしていくのが得策である。
ただし、ヴェーデーヒカーのような怒りや行為は傲慢である。もしもメイドが頻繁に遅刻をくり返し、反省もなにもない態度をとるような人間だったなら怒りにも襲われるだろうし、鉄棒で頭を殴ってやろうかという気分にもならざるをえない。しかしブッダの話から推測するに、カーリーというメイドはけっしてそういう人間ではないようである。よってヴェーデーヒカーはカーリーに対してこのような発言をするべきなのだ。
「遅刻くらいたいしたことはないですよ。人間にミスはつきものです。明日からは遅刻しないように気をつけてくださいね」
そしてメイド側もメイド側で深く反省し、同じ失敗を極力くり返さないように精進すればいいだけのことなのである。