メシア的感動のアンビリバボー傑作選  もうひとりのシンドラーを探して 第3話 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 ━━ときは1938年、ポーランドの首都ワルシャワでのこと。ひとりの女性が老人に食糧の入った袋を手渡す。彼女に老人がか細い声で礼をいった。

 

 
 「イレーナさん、いつもすまんね」

 

 
 そんな老人にイレーナと呼ばれた女性は笑顔で答えた。

 

 
 「いいんですよ。困ったことがあったらなんでも相談してください」

 

 
 そう。彼女こそが当時28歳のイレーナ・センドラーその人だったのだ。

 

 
 イレーナは当時、ワルシャワの社会福祉局で働いており、老人や孤児などに食品や生活用品を援助していた。その中には多くの貧しいユダヤ人も含まれていたという。

 

 
 1939年、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻するとワルシャワにもゲットーが築かれ、ユダヤ人はその中に強制的に移住させられた。イレーナはゲットーの中にも援助の手を差しのべたかったが、ユダヤ人以外が入ることは禁止されていた。

 

 
 が、しかし、であった━━。

 

 
 ある日のこと。ゲットー内のとあるアパートの階段に腰掛ける衰弱した老人に『どうぞ』と小声でいって食糧を渡すひとりの女性の姿があった。彼女を目にして老人が驚いた声をあげる。

 

 
 「イレーナさん?どうしてここに!?」

 

 
 「そんなこと気にしなくていいですから」

 

 
 実はイレーナは社会福祉局のコネを使い、ゲットーに出入りできる許可証を密かに手に入れていたのだ。

 

 
 しかし、それが発覚すれば命の保証はない……。

 

 
 「きさま、ここでなにしている?」ライフルを構えたドイツ兵にイレーナは問いただされた。ゲットーの内部にもドイツ軍は目を光らせていたのだ。

 

 
 イレーナはしばらく口ごもってからドイツ兵にこういった。

 

 
 「……私はワルシャワから派遣された看護師です。この老人は伝染病にかかっていて危険です」

 

 
 「なに?伝染病だと?」

 

 
 「早く、早く、この場を離れて!」

 

 
 「ちっ、わかった……」そういってドイツ兵はイレーナたちのそばを離れていった。

 

 
 イレーナは安堵のため息をついてユダヤ人の老人に小さく微笑んだ。

 

 
 このように機転をきかせながらユダヤ人を援助し続けていたイレーナは、やがてユダヤ人を密かに救済する地下組織【ジェゴダ】にくわわることになる。

 

 
 ジェゴダの地下会議室━━。

 

 
 「なんてことしやがるんだ!毒ガスで皆殺しだなんて!」ジェゴダのメンバーの男が怒りを爆発させていた。ナチス・ドイツはユダヤ人の絶滅を決定したのだ。

 

 
 ゲットーのユダヤ人は次々と絶滅収容所に移送され、毒ガス室に送り込まれていった。ちなみにその中にはあのアンネ・フランクも含まれている。

 

 
 「子供たちだけなら、すぐに助けられるわ」
イレーナが憂鬱な表情のメンバーたちにいった。「子供なら里親に預けて隠すことができるし、修道院や教会にポーランド人の子供として預かったもらうこともできるわ」

 

 
 イレーナはジェゴダの子供対策部門のリーダーとして子供たちの救出にあたっていた。

 

 
 が、数日後のことだった。イレーナは子供を持つユダヤ人の親のもとにおもむいて説明したのだが、ユダヤ人たちはすぐにはいい返事をしてくれなかった。

 

 
 「見ず知らずのポーランド人を信用して子供を預けろっていうの?バカなこといわないで!」

 

 
 赤ちゃんを抱きながらつっぱねるユダヤ人の母親にイレーナはいった。

 

 
 「そうね……私はユダヤ人じゃない。信用すべきじゃないわ。でも、このままであなたの子供は生き延びることができると思う?」

 

 
 返答に困るユダヤ人の母親。イレーナは続ける。

 

 
 「子供の命を救うにはほかに方法がないの」

 

 
 むせび泣くユダヤ人の母親。

 

 
 「私は命懸けでここにきている。それはまちがいないわ」

 

 
 そういうイレーナにユダヤ人の親たちは悲しみにうちひしがれながら子供を預けたという。

 

 
 その後、イレーナは子供たちを陣痛剤で眠らせ、スーツケースや麻袋に隠してゲットーの外に運び出し、里親、教会、修道院に託したという。

  

 

 

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