2500人のユダヤ人の子供を救ったとされている謎の人物、イレーナ・センドラーについて調べ出した4人。しかし、彼女たちはさっそく壁にぶつかっていた。
 
 「見つからないわね……」パソコンの前でメーガンがため息まじりにつぶやいた。
 
 当時、普及しはじめていたインターネットで調べても、イレーナ・センドラーの情報はまったく出てこない……。
 
 そこで4人はバスで2時間かけて、カンザスシティの歴史図書館に向かうことにした。
 
 館内の資料を読みあさって調べ続ける4人。そのときエリザベスがいった。
 
 「ねえ、ちょっと遊びに行かない?」
 
 そんなエリザベスにメーガンが厳しくいう。
 
 「調査が終わってからよ。さっさと資料に目をとおして」
 
 そして4人は書籍や新聞記事だけでなく、戦時中の映像にも目をとおすことにした。その途端、4人の浮かれた気分は吹き飛ぶこととなった。
 
 第2次世界大戦中、ユダヤ人は財産を没収されてゲットーという地域に押し込められた。そして1939年、ナチス・ドイツはポーランドに侵攻。社会不安や不況の責任をユダヤ人に押しつけ、人々の不満のはけ口にした。
 
 ゲットーでのユダヤ人の生活は悲惨を極め、配給制の食糧は大人が必要とする栄養分の10分の1しか与えられなかった。さらに伝染病が蔓延し、毎月5000人が命を落とした。無論、真っ先に犠牲となったのは子供たちであった。
 
 ……ビデオテープを見終えたメーガンがいう。
 
 「どうしてあんなひどいことができるの?信じられない……」
 
 エリザベスが吐き出すようにいった。
 
 「大人になると平気でできるようになるのよ!残酷で自分勝手なことが。だから大人なんて信用できないのよ!」
 
 過酷な状況で死んでいった子供たちのことがエリザベスにはこたえていた。そんな彼女は7歳のときに暴力的な両親に捨てられ、親戚に引き取られるという過去を持っていた。
 
 そんなエリザベスにメーガンがいう。
 
 「大人がみんな信用できないわけじゃないわ。イレーナっていう人は2500人も子供たちを救ったっていうじゃない」
 
 しかしエリザベスのわだかまりはおさまらない。
 
 「まだ本当かわからないわ!」
 
 ゲットーのユダヤ人に救いの手を差し伸べれば処刑されることもあった。そんな中、イレーナ・センドラーなる人物は本当に2500人ものユダヤ人を助けていたというのだろうか……?
 
 数日後、4人は再び歴史図書館におもむいていた。そのとき、ジャニスが声を発する。
 
 「あれ、エリザベスは?」
 
 サブリナが答える。
 
 「そういえばさっきふらっと出ていったけど……」
 
 「飽きっぽいからな。遊びに行っちゃったのかな?」
 
 メーガンがつぶやく。
 
 「私も遊びに行こうかな……」
 
 そのときである。3人の目の前にエリザベスが姿をあらわしたのだ。
 
 「優等生がギブアップなんてらしくないわね。こうなったら当時のことを知る人たちに直接聞くしかないわ」
 
 エリザベスはそういって1枚の紙をメーガンに渡した。
 
 「なにこれ?」
「あの地獄から生き延びた人たちを見つけたの」
 
 それはホロコーストを奇跡的に生き延びた人たちの連絡先のメモだったのだ!エリザベスがいう。
 
 「イレーナっていう人が本当に2500人も子供たちを救ったのなら、大人を信じられる気がする」
 
 翌日、4人はさっそくホロコースト生存者のもとに電話をかけてみた。メーガンが受話器片手にいう。
 
 「本当に無理をいって申し訳ありません。ただ私たちは真実が知りたいんです」
 
 やがて4人の熱意に生存者たちの心が動かされ、しだいに重い口を開き出していった。そして歴史に埋もれたヒロインの姿が浮かび上がってきたのである……。