のちにタイディレクターはこう語る。
「事情を聞いて驚きました。でも、それらしい男女っていわれても記憶になかったし、正直期待はできませんでしたね」
━━処分寸前のテープをデッキに入れて確認するスタッフ一同。彼らにハンキャスターがいう。
「それじゃあ、私、本番行ってくるから。タイさん、よろしくたのんだわね」
偶然にも断橋で午前中に取材をしていたタイディレクター。しかし人を探していそうな男女というだけでは手掛かりをつかむことは極めて困難である。
一方、放送を終えたハンキャスターは、別のルートから手掛かりをつかもうとしていた。セイシちゃんの預けられていた孤児院に聞けば情報を得られるかもしれないと考えたのだ。
そしてその孤児院は隣の省にあり、さっそくハンキャスターはケータイをかけてみることにした。
「10年前、そちらに預けられた女の子についておうかがいしたいのですが……」
しかし残念ながら、孤児院側は規則で子供の情報を教えることはできないという……。
タイディレクターたちのいるスタッフルームに急ぎ足で向かうハンキャスター。
「どう?」
そんな彼女にタイディレクターがため息まじりに答える。
「じっくりと2回見たんですけど、それらしき人は……」
その返答にうつむきそうになるハンキャスターだったが、表情をひきしめてスタッフたちにいう。
「念のため、もう1度見てみない?」
それにタイディレクターが『はい』と答え、テープを戻して再生する。
時間はすでに深夜。スタッフたちの疲労もピークに差し掛かっている。
と、そのときだった。タイディレクターが映像の中からなにかを見つけ、巻き戻して再び同じシーンを見出した。
それは湖畔を歩くカップルを映したなんの変哲もない映像だったのだが、タイディレクターがなにかを発見したらしく再び巻き戻して同じシーンを見出した。
カップルが歩き去ろうとしている一瞬の短いカットの中に、地面に座っている男性の姿が映っていたのだ。隣には女性もいる。うつむいているので顔はよくわからなかったが、男性の持っているうちわにはなんと━━
静芝(せいし)
━━という字が書かれていたのである!
それを発見して狂喜乱舞するスタッフ一同。彼らにハンキャスターが冷静にいう。
「みんな、喜ぶのはまだ早いわ。たしかに両親がきているのはわかったし、これで番組で大々的に呼びかけることもできる。だけどようやくスタート地点に立てただけなのよ」
セイシちゃんの両親を探せ!━━大捜索作戦のはじまりである。