1990年代半ばから2000年代にかけて、日本ポップシーンを牽引した世紀の天才ヒットメーカー小室哲哉。
trf、glove、安室奈美恵、華原朋美、篠原涼子、鈴木あみなど、彼がプロデュースを手掛けて大スターに躍進したアーティストは数知れず、さらにヒット曲の数にいたってはもはやあげ出したらきりがない……。
そんな小室哲哉の才能の広大さを再痛感させられたのが、なんといってもダウンタウンの浜ちゃん(Hjungle)をプロデュースしたときだろう。
デビュー曲≪WOW WOR TONGIHT≫はミラクルヒットとなり、それまで音楽活動とはまったくの無縁だったひとりのお笑いタレント、浜ちゃんがポップス界を代表するスーパースターの仲間入りを果たしてしまったのだ。このときほど小室哲哉の天才ぶりを改めて思い知らされたことはない。
が、しかし、である。私は浜ちゃんのデビュー曲≪WOW WOR TONIGHT≫は発売前からメガヒットを確信していたのだが、ヒットすることを疑問視した人たちがいたのだ。
なにかのテレビ番組で番組スタッフが、ふたり組の音楽関係者と思われる男性たちに『浜ちゃんのデビュー曲はヒットしそうですか?』といった質問をするコーナーがあったのだ。
そしてその質問をされたふたり組の音楽関係者というのが、茶髪に小麦色の肌の“ザ・チャラ男”といった雰囲気の人たちで、≪WOW WOR TONIGHT≫を聴き終えてから片方の男性がこういったのだ。
「でも……歌へたじゃん?」
それに対してもう片方の男性が『あらら』といったふうに手で口をおさえるような仕草をした。
結局、それだけで終わってしまったのだが、このふたりはありえないほどのスーパーバカとしかいいようがない。
歌がへたなのは当然だ。浜ちゃんの本業はシンガーではなくコメディアンなのだから。それ以外の要素で売れるか売れないかを質問しているのだ。
たとえば人気コメディアンが映画で主役を演じたとする。たとえ演技が上手でなくてもナイスなキャスティングであったり、観ている人たちに伝えるものがあったりすれば、それだけで充分に“ヒットしそうな映画”ということができるはずだ。
浜ちゃんのデビュー曲≪WOW WOR TONIGHT≫もそれと同じことである。歌のレベルは高くなくても、詩の世界観やメロディーのイメージが浜ちゃんとぴったり合っていれば、それだけで充分に“ヒットしそうな歌”といえるはずだ。『浜ちゃんのデビュー曲は売れそうですか?』と質問されたふたり組のチャラ男音楽評論家たちは、そんなことも判断ができないスーパーバカだったというわけなのである。
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