子供の頃のことである。ふたつ上の姉のクラスに猿顔の女子生徒がいるらしく、姉たちはその女子生徒の猿顔をからかったのだという。すると猿顔の女子生徒は笑いながら『あたし将来、猿になるんだ』と切り返したらしい。
その話を聞いた私の母はその女子生徒のことを『大人なのよ』と賞賛したのだが、猿顔をからかわれた女子生徒の心に深い傷ができたことは容易に想像できる。気丈に明るく振る舞いながらも容姿をあざけられた屈辱は消えることはないだろう。
しかし猿顔をからかわれた女子生徒は、実はなにひとつ傷つくことも苦しむことも悔しがることもないのだ。なぜなら猿顔とは“大スターの条件”だからだ。
ローリング・ストーンズのミック・ジャガーも、エアロスミスのスティーヴン・タイラーも、織田裕二も久保田利伸も安室奈美恵も全員猿顔ではないか。
それでは猿顔の女子生徒をからかった連中はミック・ジャガー以上の、スティーヴン・タイラー以上の、織田裕二以上の久保田利伸以上の安室奈美恵以上の大スターだというのか?
人の顔をからかい、あざける前に、自分自身がミック・ジャガー以上のスーパースターになってみたらどうなのだ?それではじめて発する言葉に説得力が生まれるのだ。