アキバ事件を筆頭に、無数の悲惨な事件で彩られた2008年も終わりをむかえようとしていた頃、最後の最後にまたもや日本国民を愕然とさせる大事件が起きてしまった。
飯島愛の死━━遺書が見つかっていないみたいなのだが、限りなく自殺に近い死のような匂いを感じる。タレントの頃は毒舌発言などが目立った飯島愛だったが、彼女の死を悲しむ人が厖大にあらわれたところを見ればわかるように、常に弱者にあたたかい手を差し伸べ続けていた人でもあった。
そんな飯島愛が生前に残したメッセージの中で、私が最も印象強く残っているのがTBSのサンジャポのときに出たものである。
その回はいじめ問題を扱っており、飯島愛がなにげにこう発言したのだ。
「行かなきゃいいのに、学校。その勇気はないの?」
……飯島愛のこの言葉の意味がわかるだろうか?いじめられてつらくて苦しいのなら学校に行くのをやめればいいといっているのだが、飯島愛のこの言葉はもっと深く重い意味の含まれたものである。
学校に行きたくなければ登校拒否をすればいい。今は大検などもある時代であり、たとえ普通に学校に通っていなくても高学歴を獲得できる可能性はある。それはわかっているのだが、登校拒否をしたくても簡単にはできない葛藤があるのだ。
おそらく自殺を選んだいじめ被害者の子供たちは、登校拒否という選択肢があることを知っていたと思う。しかし、ついに登校拒否の道を選ぶことができずに自殺をしてしまったのだ。
登校拒否━━極めて簡単なことのように思われるかもしれないが、プライドと自尊心の塊の生き物である人間には、物を右から左へ動かすようにさっさと実行できるものではない。もしも登校拒否を選んだら、いじめ加害者たちに負けたことを意味する上、想像を絶する敗北感、屈辱感、羞恥心の嵐に痛撃されることになるからだ。
いじめを理由に登校拒否をし、敗北感や屈辱感や羞恥心の泥にまみれるくらいなら死んだほうがましだーーきっとほぼすべての自殺者の子供たちは、このような考えに頭が支配された状態で自殺をしたのだと思われる。その気持ちは限りなく理解できる。私もまったく同じ感情に全身を襲われた経験があるからだ。そんなプライドの高い子供たちに飯島愛は『逃げる勇気を持て』というメッセージを放ったのである。
逃げる勇気━━これを持つのは至難の業だとは思う。たとえいじめ地獄から抜け出られても、次は敗北感、屈辱感、羞恥心の嵐との死闘が待ち構えている。特に男の子の場合は『男は強くあれ』『男は弱音を吐くな』といったジェンダーによる精神支配の影響があるため、襲われる敗北感、屈辱感、羞恥心の度合いは女の子の場合の軽く倍以上はあると思われる。
いじめ地獄と敗北感・屈辱感・羞恥心地獄、どちらの地獄もとても耐えられるものではない。そして選択肢を失って自殺に走ってしまうケースが大半だと思うのだが、現在いじめ地獄に呻吟している子供たちにはぜひとも“逃げる勇気”を持って登校拒否の道を選んでもらいたい。
たしかに“逃げる勇気”を持つことは至難の業であり、登校拒否を選択してからは敗北感・屈辱感・羞恥心地獄が待ち構えている。しかし飯島愛が残したメッセージ“逃げる勇気”というものを全身全霊を込めて獲得し、登校拒否を選んでいったん地獄の現実から逃避してもらいたい。しばらくしてから敗北感・屈辱感・羞恥心地獄がはじまりを告げることとなるが、敗北感・屈辱感・羞恥心地獄から抜け出す方法と、勝利の美酒に酔いながらいじめ加害者たちを空から見下ろせられるようになる方法を、いずれ、必ず、私が教えてあげるから。
全国のいじめに苦しんでいる子供たちよ、どうか“逃げる勇気”を持ってくれ。