アニメの『クレヨンしんちゃん』で、お母さんのみさえが読書をはじめようと思い立ち、近所の本屋の中を歩きながらこのようなセリフをつぶやくシーンがあった。
「おもしろそうな本はないかしら……」
きっと読書を趣味にしようと考えている人たちの多くが、このみさえのような感覚で本屋の中を歩いて回っているのではないだろうか。
しかし、それは少し道がそれた感覚である。読書を本格的にはじめようとしているのなら“おもしろい本”を探すのではなく“おもしろい本しか書けない作家”を探すのだ。この世の中にはなにをどうあがいてもおもしろい本しか書くことができない星の下に生まれた文学の天才がおり、その人の作品を片っ端から読みつくしていくのである。
おもしろい本しか書けない作家ーー例をあげるならSF界の巨匠平井和正、ミステリー界の重鎮森村誠一、ミステリーの鬼才島田壮司、直木賞も獲得したミステリー作家京極夏彦。この4人が私の中の“おもしろい本しか書けない作家四天王”である。
私はこの4人の作品を10数年前から読み続けているのだが、この4人の作品はどれをとってもぜったいにはずれがなく、どれをとっても確実におもしろいのだ。この4人はなにをどうがんばってもつまらない本を書くことができず、神から授かった文学的才能と創造力を駆使して恒久的に濃厚な傑作小説を書き続けているのである。
まず、“おもしろい本しか書けない作家”の作品というのは、飽きや疲れが襲ってくるのが非常に遅く感じる。並みの作家の作品は2,30ページほど読んだら飽きと疲れが襲ってきて読み進むペースが落ちてくるのだが、“おもしろい本しか書けない作家”の作品は50ページほど読んでようやく飽きと疲れをかすかに覚える程度なのである。ときには内容のあまりのおもしろさに時間の経過を忘れてしまうこともあるほどだ。
内容のあまりのおもしろさに時間の経過を忘れる━━小説ではないが、『スラムダンク』という漫画を読んでいるとき、2、3時間が一瞬のうちに過ぎ去ったかのような感覚を味わったことがある。『スラムダンク』の段違いのおもしろさに全神経が集中し続け、時間の経過というものを意識する脳が働けなかったのだ。漫画派の人の中にはこれに近い体験を味わった人が多くいるのではないだろうか?
とにかく“おもしろい本しか書けない作家”の文章は論理的で美しいだけでなく不思議な重みがあり、ずっと読み続けていたいという感情を読者の脳に発生させることができる。私はここに平井和正、森村誠一、島田壮司、京極夏彦の名前をあげたが、こうした人たちはまさに神から傑出の文学的才能を与えられた選ばれし文人たちといえよう。
もちろん彼ら以外にも神に選ばれた“おもしろい本しか書けない作家”は多く存在するだろう。これから読書を趣味のひとつにくわえようと考えている人たちは、自分の趣味や感覚に合った“おもしろい本しか書けない作家”を見つけ出し、基本的にその人の作品を読み続けていくことをお勧めする。
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