動きを観る | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。


  人間の「動き」を追求することによって、馬とのより自然で円滑なコミュニケーションを実現しよう、
という『古武術ホースマンシップ』として、

今回は、人間や馬の「意識」と「動き」の関係、といったことについて考えてみたいと思います。



  例えば、2人の人が互いに向かい合って立っているとします。
 



  一方の人が片手を前に突き出し、その手の甲の上にもう一方の人が手を重ねて置いた状態から、

下になっている方の人が手を動かして逃げるのを、手を上に置いている方の人が離されないようについていこうとするとき、

目で相手の手の動きをよく見ながら追いかけようとしても、どうしても動きに遅れてしまい、離されずについていくのはなかなか難しいものです。





  ですが、そこで追いかける側の人が、相手の手ではなく、顔の辺りをボーっと見るような感じで、相手に触れている手の触覚を頼りに追いかけるようにしてみると、比較的簡単に相手の動きについていくことが出来るようになります。






  相手が手を動かすだけでなく、足を使って動き回るようにした場合でも、

目で見て追いかけようとしたのではなかなかついていけないのに対して、

追いかける側の人が目隠しをして、触覚だけを頼りに追いかけるようにした方が、むしろ楽についていけたりします。


  これは、相手の動きを目で見て、頭で「あっ右だ」というように認識してから、どちらへ動くべきか考えて判断し、手足の筋肉に力を入れて動かしたのでは、動き出しがどうしても遅れてしまうのに対して、

思考を介さず、手の触覚で感知した相手の動く方向へと自然に身体を動かしてついていく方が、圧倒的に反応速度が速くなるからだろうと考えられます。


 以前、この内容を、介護職のレクリエーション研修で参加者の皆さんに体験して頂いたところ、

「視力や聴力が低下して、認知にも少し不安のあるような方を誘導する時に、

言葉で右、左と指示するより、自分の手の上に手を置いてもらったりして触覚を頼りについてきてもらうようにした方がスムーズにいったりすることに、改めて納得がいった」というように喜んで頂けて大いに盛り上がったことがありますが、

生まれつき障害のあるような方はもちろん、病気などで視覚を失ったような方でも、他の残存機能によっていわゆる健常者の私たちが想像する以上に認知能力が補完されている、ということなのかもしれません。





  このような現象は、乗馬で馬とのコミュニケーションを図る場合においても、意識するかしないかに関わらずしばしば起こっていることです。

 例えば、馬に乗って、拳を馬の頭の動きに合わせて随伴させようとするような場合に、

馬の頭の動きを目で見てタイミングを揃えて動かそうとしても、なかなか合わせられなかったりしますが、

目線は前方を全体的に見るくらいにして、拳に感じる、馬の後肢のパワーが背中から首、ハミへと伝わっているという手綱の「手応え」を頼りに、馬の動きを触覚で感じながら拳を随伴させることで、手綱のコンタクトを一定に保ちやすくなったりします。



 

  合気道などでは、正座の姿勢で向き合い、手刀を交わすような形で手を合わせたところから互いに押し合う、というような稽古法がありますが、



これを行うことで、触れた部分を押し返すことを意識するのではなく、膝や腰、肩、肘などの関節を同時並列で動かしながら全身を協調させて「結果的に真っ直ぐ」に押し込んでいく感覚や、

手から感じる相手の力の方向から、相手の動きの支点になっている部分や力の出所を見極める感覚を磨くことかできます。




   乗馬でも、例えば馬にホルター(無口)や頭絡を取り付けるようなときに、

初心者のうちは馬の顔を見ながら一生懸命抑えようとしても馬にさっと頭を上げられてしまったりしていても、

だんだん慣れてくるにしたがって、
ずっと力を入れて抑え続けたりしなくても、馬の顔に触れるか触れないかくらいの感じで軽く手を添えておいて、触覚で馬の動きの「起こり」を感知して先に抑えてしまうことが出来るようになるように、


 騎乗時や、引き馬や洗い場で馬を扱うような場合にも、
馬の身体各部の緊張や弛緩といったことを五感で感じとりながら、馬が抵抗しようとする瞬間にタイミングよく抑止したり、逆に馬が力を抜いたのを感じたら即座に解放したり、ということを意識してみることで、

馬に余計なストレスを与えず、少ない力でスムーズに動かしていくことが可能になり、調教面でも安全面でも非常に有効だと考えられます。



 視覚や筋力だけに頼るのではなく、自身の身体の感覚に意識を向けて、全身で馬の動きを『観る』ようにすることで、

思考で作った二次元的な動きではない、より「自然な」コミュニケーションや、馬の動きに一致した随伴ができるようになって、

小さな子どものように、純粋に乗馬を楽しむことが出来るかもしれませんね。








  うう