例えば、腰を左右に捻る、という動きがありますが、
腰椎は、体を支えるために、特に下半分の腰椎3〜5番あたりはがっちりと固められていて、ほとんど旋回は出来ません。
また、胸椎も、その12本のうち上の10本は、肋骨が「鳥かご型」になってるために、それほど大きく旋回(回転)は出来ないのだそうです。
それに対して、胸椎の11番・12番の部分だけは、そこについている肋骨が途中で途切れているために、いろんな方向に自由自在に動かすことが出来るのだということです。
人間が歩く時、通常は、腕を前後に振り、「肩・胸」と「腰・骨盤」が反対方向に旋回するように動きます。
ラテン系のダンスなどの、腰をくねくね動かしたり、ヒップを左右に動かしたりする動きも、外見上は、腰が動いているように見えますが、
人間が頚椎7、胸椎12、腰椎5、仙椎5(仙骨として癒合)、尾椎3~5個であるのに対し、
馬では、頚椎7、胸椎18、腰椎6、仙椎5、尾椎15~21個となっています。
特筆すべきは、馬の胸椎の数の多さで、それに伴って肋骨も18対もあり、前位の8本(9本)は直接胸骨と関節する「胸肋骨(真肋)」、あとの10本(9本)は、「非胸肋関節(仮肋)」と呼ばれます。
頚椎や尾椎はその関節部が球面上で、可動域はせまいものの、3軸方向に動かすことが出来ますが、胸椎は、関節面がほぼ平面上であり、さらに個々の胸椎の背側には「棘突起」が高く伸び、左右側面には肋骨が付着しているために、その関節には可動性がほとんどありません。
仙椎は、5つの小骨が生後癒着して「仙骨」と呼ばれる1つの骨になっています。
柔軟性がほとんどない胸椎と仙骨をつないでいるのが腰椎で、その関節面はほぼ平面状ですが、多少の可動性を有しています。
人間の腰椎があまり動かないのに対し、馬では、主にこの部分が、人間の胸椎12、13番の部分と同じような「緩衝エリア」として機能しています。
馬術のイメージでは「背骨のスイング」などとよく言いますが、馬の背骨で動いているのは、実はこの部分だけ、ということになりますね。
馬の胸郭の前部は、前肢の肩甲部と上腕部をその外側の体壁皮膚下に収容するために、左右から圧迫され、狭くなっていますが、前肢よりも後方では側方に拡張して、樽型をなしています。
同じ脊椎動物である馬と人ですが、最大の違いは、椎骨にかかる重力のベクトルです。
人の場合、直立の姿勢だと、椎体が積み重なる方向に重力がかかるのに対して、馬の場合は、脊柱の椎骨群に対して垂直に重力がかかります。
ちょうど「吊り橋」のようなイメージで、そこに人が乗ることで、さらに負担が大きくなることは想像できます。
競馬でも、たまに騎手が落馬した馬が、そのまま一着で入線するようなことがありますが、
人が乗ることで脊柱の可動性が失われれば、当然一完歩の距離は短くなるだろうと考えられますから、 一流の騎手がいくら馬に負担の少ない乗り方をしていても、やはり人が乗らない状態の方が(本気で走れば、の話ですが)速く走れるのは確かだろうと思います。
といって、全部が空馬では、レースや競技は成立しませんし、馬術としての意味もなくなってしまうでしょうが…。
騎手の役目は、精々、馬の邪魔にならないように、馬が椎骨を動かしやすいような乗り方をしながら、馬が「背中」を使った動きを出来るようにして、持っている能力を最大限発揮してくれるように誘い導くことだと言えるでしょう。
昔から「人馬一体」と言われているように、人馬の重心の位置を意識しながら、その動きを一致させることが大切なのだろうと思います。