井料瑠美CD「コノハナノサクヤヒメ」制作録 ~サニワの書④~ | 文化家ブログ 「轍(わだち)」

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前回に続き、私、中西聡が井料瑠美さんと辿ったCD「コノハナノサクヤヒメ」の完成にいたるまでの道のりを書き記してまいります。この企画はいくつもの偶然という名の必然から生まれたアルバムであることを知って頂きたくて。



~3人の女性作曲家との出逢い~

歌里涼さんとの出逢いを数回前よりお伝えしております。追体験。この「サニワの書」を書き記すことは、私にとって『追体験』であります。このアルバムが未完に終わるのではと思えた瞬間が多々ありました。それがこうして今、完成を見た後に、これを書き記す。全てを始めに戻すに等しい作業。その意味するところ。それではお話の続きをいたしましょう。

2曲目『輪廻』そして7曲目『千歳 百歳~金色の水』
「コノハナノサクヤヒメ」の世界が生まれたその瞬間。
アルバムのブックレットをご覧になられた方は、お気づきのように、この2曲は井料瑠美さんご自身の作詞でありました。

前回の続きからお話いたしますと、歌里さんとの楽曲制作の過程におきまして、「言葉」が何よりも歌里さんの曲作りの想像を掻き立てる事に必要な要素でありました。
「言葉」、「言葉」をください。歌里さんが、よくおっしゃっていたな・・・とつい昨日のように思い出します。

そして、ある日、井料さんより想いが溢れるばかりの「歌詞」を送ってくださったのです。
「コノハナノサクヤヒメ」の神髄。この姫神の本質すべてを内包し、表現する「歌詞」を。
それが、『輪廻』『千歳 百歳~金色の水』に共通する歌詞となりました。
2曲目の『輪廻』は、歌里さんと井料さんが、この歌詞より、さらに「コノハナノサクヤヒメ」の“永遠の回帰性”そのものを描き出す言葉を選び、そこに歌里さんがメロディーをつけ完成いたしました。

文章も同様ですが、音楽にも余白の良さがあります。行間から読者に想像をしてもらう事。同じように耳に届いた音楽からイメージを膨らませてもうらう余白。
『輪廻』は前奏、そして間奏に、十分過ぎる余白を歌里さんがつくられました。
これは、むしろ井料さん、そして私に対する音楽での挑戦。セッションを通じて、もともとの送り手側であります私たちに、さらに高みに到達するために歌里さんより課せられた宿題。
ここを埋めるも、余白を残すもご自由にと言わんばかり。むろん、決して悪意を持たれての事ではないことは、申し上げるまでも無いことですが。

井料さんと私が出した結論。
すでにアルバムをお聞きくださった方ならお分かりの答えですが。
間奏は余白そのままに、聞く方に想像の翼を広げて頂くようにいたしました。
そして前奏には、新しい「言葉」を見つける事といたしました。
そこにつける「言葉」。本来は、『縄文語』を歌里さんが望まれていたのかも知れません。
縄文語の「うごめき」。前奏にはそれが相まってさらに昇華する可能性も有りました。
ただ、井料さんと私は、その役割はすでに音楽が表現している事を十分に理解しておりました。
そこで、この楽曲に添える言葉として、ふさわしい「古歌」が無いものかと考えあぐねました。

これほどまでに技術も情報も溢れていなかった時代。万葉の人々が想像を働かせ詠んだ「歌」。しかし、当然ながら、そんなに器用に見つかるものでも有りません。「和歌」本来は恋の歌。想いを五 七 五 七 七の三十一字(みそひともじ)に込めたもの。

ただ、私たちは偶然という必然にまたしても巡り合います。
それは、まるで見つけて欲しいとばかりに、足元にあったのです。お正月の遊びとして、親しみのある「小倉百人一首」。平安時代末期より鎌倉時代初期を代表する歌人・藤原定家が選定した歌集です。「競技かるた」としても知られ、毎年1月には滋賀県の近江神宮におきまして名人戦が行われております。その競技かるたの競技開始に詠まれる歌(序歌)があります。

『難波津に  咲くやこの花  冬ごもり  今は春べと  咲くやこの花』
百済から日本に渡来した王仁(わに)の作と伝えられ、長らく空位になっていた皇位を難波高津宮に於いて、仁徳天皇が即位し、その繁栄を願い詠われた歌と言われます。

仁徳天皇の即位を花に例え、冬の間、こもっていた花が、今、ようやく春になり、花が咲いたという解釈になります。

この歌に気付いた時には、衝撃を覚えました。アルバムのテーマの一つであります幾久しく続く繁栄を祈る心。それがまさに、詠われていたからです。

歌里さんの前奏に合わせ、この古歌を「コノハナノサクヤヒメ」にふさわしく詠み直すことといたしました。そして出来上がりましたものがこちらになります。

『古に 咲くやこの花冬籠り いま世春べと咲くやこの花』


こうして『輪廻』が出来上がったのです。

同じ井料さんの歌詞より紡がれました7曲目『千歳 百歳~金色の水』。
この曲は、欧州を舞台に活躍されております25弦の琴奏者 中川果林さんによってつくられました。

それでは、この続きは次回にお話しいたしましょう。


サニワ(審神者)とは神託を受け、神意を解釈して伝える者。




この記事について


KonohanaCD

井料瑠美1stアルバム『コノハナノサクヤヒメ
2015年11月3日発売
文化家】にて好評発売中!

井料瑠美 『コノハナノサクヤヒメ』
価格:3,000円(税込)