~ぶらぶら江戸散歩~vol.29『鎌倉宮』 | 文化家ブログ 「轍(わだち)」

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江戸開府より約400年。東京下町には、江戸の息吹が今なお息づいております。
身近な江戸をぶらぶら散歩。新富に生まれた私、中西聡。
八丁堀・日本橋を中心に、江戸の町のちょっとした情報をお届けいたします。

今回は、ちょっと東京を離れ鎌倉を訪れました。
東京駅からは横須賀線で約1時間。横浜を過ぎ、だんだんと景色が変わって行きます。大船駅では、停車中の車内からも良く見える大きな大船観音の像が出迎えてくれます。そして北鎌倉に入りますと古都の風情が。そしていよいよ鎌倉駅に到着です。

1192年に源頼朝により幕府が置かれ、街は栄えました。
相模湾に面する由比ヶ浜から一直線に延びる道、これが若宮大路。3キロにも及ぶ大通りの終着点には、鎌倉を象徴するシンボルの「鶴岡八幡宮」がございます。
若宮大路は、京都の朱雀大路を模して造られたと言われているそうです。
鎌倉の街並みは、全てこの「鶴岡八幡宮」を中心に形成されたと言っても過言ではありません。

実際に鎌倉の街をブラブラと歩きますと、周囲を囲む山、崖の多さにびっくりするのではないでしょうか。そして街を走る道の細さにも、さらにびっくりすることでしょう。
容易に敵に攻め込まれない、地理的な利点をいかしました自然の要塞のごとくの都市計画が未だに残っている証拠です。

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さて、本題にもどしましょう。鎌倉駅を降り、まずは今回の散歩の目的地、『鎌倉宮』を目指します。ちょっとお洒落なお店と若い人たちで溢れかえる「小町通り」にはめもくれず、ずしずし歩いて参ります。小町通りの突き当りは、「鶴岡八幡宮」。ここも今回は後ろ髪引かれながらに過ぎて行きます。境内を横切るコースで歩きましたので必然、お太鼓橋と能舞台が目に入ります。



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現在の「太鼓橋」は、昭和2年に、鉄筋コンクリートと石で造られた橋ですが、『新編相模国風土記稿』によれば、かつては朱塗りの板橋だったといいます。
そのため「赤橋」と呼ばれていたそうです。

能舞台は、言わずと知れた静御前が舞を舞った舞台。最愛の人(=源義経)を慕い読んだ歌が、


「吉野山 峰の白雪 踏み分けて入りにし人の あとぞ 恋しき」
「しずやしず しずのおだまき 繰り返し むかしを今に なすよしもがな」

本来でしたら、源氏の守り神である八幡様に奉納する歌を詠むべきところ、義経への慕情を謡った静の心意気を感じずにはいられません。

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おっと、また脱線しました。鶴岡八幡宮に別れを告げ、横浜国立大学付属小学校の校庭を横目に見ながら、さらにさらに小道を進みます。すると『鎌倉宮』にたどり着きます。
このブラブラ散歩では、ずいぶんと神社をご紹介しております。
その多くは偉業を称え祀られたものが多いのですが、時に荒ぶる魂を鎮めるために創建された神社がございます。
その一番有名なものは、菅原道真を祀る「天満宮」ではないでしょうか。今や学問の神様として信仰を集めておりますが、大宰府にて無念の死を遂げた道真の祟りを鎮めるために建立されたのが始まりです。

この『鎌倉宮』も、建武の新政を成し遂げた後醍醐天皇の皇子「護良親王(もりながしんのう)」の御霊を鎮めるために創建された神社です。鎌倉時代末期、護良親王は天台宗座主として仏に仕えておりました。

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しかし、世の荒廃を憂い平和な世の実現のため、後醍醐天皇はついに比叡山にて挙兵を計画いたしますが、幕府に事前に察知され捕まり隠岐に流されてしまいます。そんな父に代わり、還俗し名を護良親王と改め、楠木正成、新田義貞を率いて幕府軍と戦うのです。
護良親王が出した令旨(りょうじ=皇太子の命令を伝えるために出した文書)により、各地の武士が呼応して挙兵し、ついに北条氏を倒し鎌倉幕府が滅びたのです。
その後、征夷大将軍になった護良親王ですが、足利尊氏と対立、捕えられて土牢に9か月もの間幽閉され、非業の死を遂げたのです。
その土牢があった場所が、この『鎌倉宮』に今も有り、実際に拝観することが可能です。

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さて、鎌倉宮の裏手に、日本を代表する画家であり文化財保護に力を注いだ平山郁夫画伯のアトリエがございます。平山先生ご親族並びにシルクロード美術館事務局の皆さまとは親しくさせて頂いておりまして、今回は茶室「寂静庵」を拝見させて頂きました。
平山先生は、生前この茶室を瞑想の空間として大切にされていたそうです。隣接するアトリエで数々の名画が誕生したと思いますと感慨深かったです。
一般には残念ながら、アトリエや茶室は公開されておりませんがぜひ雰囲気を感じて頂ければ幸いです。

それではぜひ、皆さんも、鎌倉宮界隈をブラブラ散歩してみてください。

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