(8)

 

 すっかり傾いた陽の光に染まり陰鬱な色に呑み込まれ揺らめく海のおもてを並んで見つめる砂浜の真ん中に立つ二つの影。真帆と敬二。人とロボット。

 真帆の言うところでは、こうだ。敬二は真帆がいた芸術大学と産業用ロボット製作会社が協同で作ったAIロボット。人間社会で人間相手に人間らしさに揉まれ生きていくストレスにAIロボットがどんなアドバイスを与えられるのか実証実験するためのロボット。自分は実験の協力者。報酬として、前衛芸術活動に必要な資金の援助を製作会社から受けている。お金のためとはいえ、潮風に当たりバグって固まった隣に立つ敬二を見ると心が痛む。情が移っている。敬二のヤツめ。

 真帆の目が霞む。涙が出そう。でも出ない。目はただただひたすら霞んでいく。海のおもてが識別できなくなったのは陽が西の山に隠れてしまったから?だとしたら打ち寄せる波の音はなぜ消えた?腕が指が足が動かないのはなぜ?真帆は必死で考える。錆びてバグった頭で考える。それも束の間。意識も景色も真っ黒な闇に呑まれて消えた。

 二体のロボットは消波ブロックの陰から様子を窺っていた製作会社の社員たちに回収された。大量のデータを獲得できた。今後のAI開発に大きく貢献する有意義な実験だった。美しく醜い人間らしさ。それとどう向き合いどう対処するのか。AIに残された最後の難問。いや、違った。本当の最後の難問は、潮風に耐える部品を作ること。

 

 

 了