(6)砂の階段

 

 カンカン照りの太陽が頭の真上から照り付けていたその頃も、今とおんなじようにもがいて足掻いていた。陽が傾いてきた。それだけ時間が経ったんだな。

 ここがどこだか私には分からない。見えるのは、砂の壁だけだから。私の身長の三倍か四倍?もしかしたらそれより遥か高くまで四方八方砂の壁がそびえている。蟻地獄の底に落ちている格好だな。壁の上まで這い上がらないと何も始まらないな。何も分からないな。そう思い砂の壁を上り始めた。随分前だ。ずっとおんなじ事を繰り返している。砂を踏み締め踏み締め上ろうとする。砂は踏んだ所から崩れ出す。次に踏んだ所も崩れて消える。踏み出す足が踏んだ砂の階段はどれも脆く瞬く間に崩れて消える。

 ずっとそうだったと私は思う。ずっとそうだった。何か始めても、やり方の基礎をしっかり学んで一歩一歩階段を上ろうとしても、踏み締めるそこが、崩れて消える。やっとのことで数段上っても、次の一歩で全部崩れて消える。積み重ねた全部が崩れて消える。また一からおんなじ事を繰り返す。上るのを止めてじっとしていればいい。そうもいかないのだ。照り付ける太陽が体を焼いてじっとしている訳にはいかなくなる。砂の壁の向こうから何やら分からない恐ろしい物が襲って来る気配がする。早く壁を上らなければ。砂を踏み締める。崩れて消える。

 何か降って来た。砂じゃない。水だ。雨か?雨じゃない。塩っ辛いぞ。すぐに降って来る水の量が増え出した。まとまった量でジャバジャバ降り出した。私は理解した。ここは砂浜で、今、潮が満ちようとしているのだ。恐ろしい物が本当に襲って来た。砂に囲まれ、砂にではなく、私は海水に呑まれて命を落とすのだ。水は激しく勢いを増しながら私が落ちている穴に注ぎ込んだ。降り注いだ。満ちて溢れた。私は覚悟を決めて身を任せた。水は、私の体を持ち上げた。浮かび上がらせた。高く掲げた。私は砂の壁から脱出した。襲って来た恐ろしい物のお陰で、私は私を捕えて放さなかった砂の壁から逃げ出すことができた。解き放たれた安らぎを噛み締めて潮の流れにしばらく身を委ねた。そして岸へ戻ろうと泳ぎ始めた。ひと搔きしても、岸は離れていく。もうひと搔きしても、更に離れていく。潮は私を沖へと運んでいく。流していく。さらっていく。力いっぱい手を搔き足を搔きどれだけ岸に戻ろうとしても、潮は問答無用で私の体を沖へ沖へと流し運んでいく。今度はこれか。私はひと搔き、岸へ向かって力強く腕を回した。その何倍もの力で潮は私を沖へ沖へと流しさらっていった。