(4)

 

 真帆のバイト先のスーパーの駐車場でアートパフォーマンスを開催することになった。ドン底からさらにジリ貧の経営状況を打開するための画期的かつ効果的な起死回生の一手だと店長は言う。真帆はもちろん他のアーティスト仲間にも声をかけ賑やかに盛大にやって欲しい。スーパー側からの依頼なので、会場代など諸費用はすべて無料。全員に相応のギャラもお支払いします。日頃人一倍バイトを頑張りいろんな無理を聞いてくれる真帆への心からの恩返し。でも真帆は、店長の表情からそれとは別のものを読み取っていた。店長、ヤケになってない?そんな余裕ないでしょうよ、大丈夫?

 声をかけた同世代のアーティストたちとグループチャットを作り本番に向け準備を始めた。このチャット上での毎日のやり取りが途方もなく途轍もなくめんどくさい。一人だったらどれほど楽だったかと真帆は心の底から後悔をした。強烈なエゴとエゴのシーソーゲーム。1ミリのマウントの必死の奪い合い。仕切りたくて威張りたくてしょうがない自分を隠すためだけの美辞麗句。「ホメてよくん」がこっちで拗ねだしたぞ。「ホメて子ちゃん」があっちでふてくされたぞ。それを執りなすフリしてイニシアチブを握ろうとするヤツらが揉めだしたぞ。ただの画面上の文字でしかないのに、どうしてこんなに一人一人の性格が滲みだし丸見えになってしまうのか、真帆にはなんとも不思議なのだった。

 それは、この件への刑事敬二の啓示の掲示にもまったく当てはまることだった。敬二の性格が丸出しになっている。どこの誰でも思いつくアドバイスをひたすら真面目にしてくれるだけなのだ。でもそのことが、それだからこそ、真帆にはありがたい救いだった。目の醒めるような驚くべき解決案が欲しいわけじゃない。敬二の誠実さに触れるだけで、心がスッキリ安らかに落ち着くのだ。そう、いいじゃんか。アーティストのみんな、モロに人間らしくていいじゃんか。人にどうしても譲りたくないことだってあるじゃんか。自分の頑張りを認めて欲しい時だってあるじゃんか。それを表に出せる素直さがいいじゃんか。それを隠そうとする体裁も可愛いじゃんか。人間なんだからそれでいいじゃんか。笑って、スカして、笑って、忘れて、前に進めればそれだけでいいじゃんか。