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 真帆と刑事敬二の出会いを説明しよう。

 真帆は芸大卒業して間もない前衛芸術家ではあるけれど、それだけで食べていけるわけもなく、アパート近くの個人経営の地元密着型スーパーでバイトをしている。基本フロアで様々な仕事をこなしながら混雑の度合いに応じてその都度レジ応援にも入る。なんでもやる。臨機応変に。そうじゃないバイトさんもいっぱいいる。自分はこの担当で採用されたのだからこれしかやらない。決まった時間に決まった仕事しか絶対やらない。頑としてやらない。そこで空いた隙間を真帆が埋める。柔軟にやり繰りして飛び回る。しょうがないよ。人それぞれいろんな事情があるもんね。

 超ウルトラでっかい大企業の超ウルトラでっかいショッピングモールがすぐご近所に進出してきて、個人経営のお店は軒並み絶滅への道を辿っている。人の心をくすぐる愛らしい野生動物たちとは違うので、誰も絶滅を危惧などしてくれない。弱肉強食、知ったこっちゃない。絶滅するなら勝手にどうぞ。

 真帆のスーパーももちろん例外ではなく、店長以下みんなで知恵を絞りアイデアを出し合い生き残りに必死。商品の価格をキープしながらなんとか客足を伸ばしたいのだけど、そんなことは無理。定期的に特売日を設け赤字覚悟でお客さんをつなぎ止める。お客さんのためだけの特売日。よりによって、その日に万引きしようとしたバカがいた。その瞬間を目撃してしまった真帆。お店の窮状やら店長の顔やらが頭に浮かび怒りが爆発した。店を出た所でバカの腕をつかみ罪を問いただそうと迫る真帆。初めはその勢いにたじろいでいたバカが、逆に開き直り、あれこれ言い訳を並べ立て大声で真帆に怒鳴り返してきた。そこに助けに入ってくれたのがたまたま通りかかった非番の刑事敬二だった。事態は収まり、結局大事には至らなかった。万引き犯が最近潰れたばかりの近所の個人商店の従業員だとわかったから。巨大資本に絶滅させられた弱肉側の一人だとわかったから。店長が可哀相だと言ったから。真帆も許してあげたいと思ったから。しょうがないよ。人間なんて、一人になったらとことん弱いもんだよ。