来たる5月6日、静岡のライブハウス「騒弦」にて長嶋水徳-servalDOG-主催のライブが開催されます。3月初め、長嶋さんからのオファーを快諾し歌田真紀率いる「傷女融解」が遥々東京から乗り込んで来ることになりました。以前から長嶋さんを通じて歌田さんの凄さを伝え聞いていた静岡の音楽ファン・関係者たちが生のステージを観られる興奮に沸き立つ中、4月9日、歌田さんがSNSで傷女融解の解散を発表。翌10日には正式に出演キャンセルの連絡が長嶋さんのもとに届きました。

 先日改めて数えてみたのですが、私、この8年ほどの間に現在20代のバンドを中心に延べ1000組近くのライブを生で観てきました。音楽に上下などありませんしみんなそれぞれ素晴らしい個性と長所があるのですが、それでもやっぱり他と比べて特別な強烈な印象を受け忘れられなくなるアーティストが稀にいます。その中でも、長嶋水徳と歌田真紀はちょっと別格。飛び抜けた天才のツートップなのです。

 一昨年10月、傷女融解と初めて対バンした長嶋さんは歌田さんの才能を目の当たりにして大きな衝撃を受けます。そして歌田さんの口から、自分が19歳の時にリリースした「じさつはできない」を当時14歳の歌田さんが聞いていたことを知らされます。昨年5月、再びライブで顔を合わせた二人。この日歌田さんはソロのアコギの弾き語り。その凄まじさに、歌い出しの数秒を聞いただけで「今日は負けた」と打ちのめされた長嶋さん。天才二人のそんな刺し合い斬り合いに刺激を受けて私が書いたのが昨年6月6日こちらのブログで公開した「RADICAL」です。

 私がこの二人から共通して感じ取る魅力の核心は、「満たされることでは満たされない」という一点。たとえ周りの誰もが「これこそ成功」「これこそ答え」と認めるものを手にしたとしても、次の瞬間それを放り投げその次へ、その外へと向かわずにはいられない自身の内の衝動。それに衝き動かされながら生きている人にしか発することができない痛ましい閃光を、この二人からは鮮明に激烈に感じるのです。私が言う「天才」とはそのことです。この二人の音楽の才能はもちろん素晴らしい。でもこの二人より俗に言う「音楽の才能」に恵まれているアーティストは他にいくらでもいます。「天才」とはそのことではないのです。その次元の話ではないのです。

 3月17日、下北沢にて実に5年ぶりのアコギ弾き語りライブをぶちかました長嶋さん。十代で書き上げていた名曲の数々を披露し持ち前の凄みを存分に炸裂させました。それを観ながら、6年前の彼女の弾き語りライブで目撃したある出来事を思い出しました。静岡の清水にある県内有数の大きなライブハウス。その日長嶋さんの直前に演奏したのは当時から全国レベルで大注目されていた崎山蒼志さん。満員の観客のお目当ては言うまでもなく崎山さん。彼の演奏後、ほとんどの観客がステージに背を向け出口に向かいごった返す中、次の出演者である長嶋さんはアコギ一本引っ提げてステージ中央へ向かいました。まだ出口付近に溢れる人達を一瞥し、大きくギターをかき鳴らしながら目の前に残った数十人にも満たない観客に視線を戻し、しっかりと見つめ、長嶋水徳はこう言い放ちました。「今ここに残っているあなた達が正解だってことをこれから証明してみせるよ」 そしてまさにその言葉を証明するような例えようのない切なさと迫力に満ちた彼女のライブ史に残る伝説的な弾き語りライブを繰り広げたのでした。歌田さんの弾き語りに衝撃を受けた時、今回の弾き語りに臨む時、長嶋さんはこの6年前のライブを思い出しただろうか。今の歌田さんより一つ年下の自分を裂き割り放たれ斬りつけた精神の刃の儚く脆く鋭く美しいそのギラつきを思い出しただろうか。

 21年10月、自宅アパート3階のベランダから飛び降り奇跡的に命を留めた長嶋さん。一か月半の精神病院への入院中それまで味方だったほぼ全ての人達が長嶋さんのもとを去っていったその後に、ただ一人、「長嶋水徳の才能が認められないなら世の中はクソだ」と啖呵を切りあらゆる形で長嶋水徳復活の手助けをしてくれたのが「春ねむり」という豪傑。今回、傷女融解の解散にあたり鬱病の治療に入った歌田さんにとって、今度は自分が春ねむりのような存在になれればと願いながらもその思いを伝えられずにいる長嶋さん。どんな言葉をどんな意味としてどんな気持ちで受け取ってもらえるのかをぐるぐるぐるぐる考えに考え未だその思いを伝えられずにいる様子。歌田さん、あなたの味方は確かにいますよ。あなたの病気プラスあと三つの心の病気と闘いながら音楽を続けているあなたの味方が確かにいます。敵は誰かではないでしょう。具体的な何かではないでしょう。もっと巨大で強大で普遍的な生きることそのものなのではないでしょうか。二人はそれぞれまったく別の存在でありながら、同じ敵と向き合い分かり合い共に闘える味方同士でもあるはずです。頼りたいことは頼ってあげてください。歌田さんの力になれることを長嶋さんも待ち望んでいます。

 スマホ・SNSの封印を宣言しながら活発な投稿を繰り返すあっけらかんとした身軽さも歌田さんらしくてなんともカッコいい。最高にいい意味でのスキゾイド。彼女を何かで括ろうとしたって無理なのです。そしてご結婚おめでとう。とにかく元気そうで何よりです。

 伊藤雛乃さん。傷女融解の素晴らしいドラマーでありながら渉外役も兼ねオファーへの丁寧な対応をして頂き大感謝。ご自身もまだまだお若いのに立場上責任を背負った大人として振舞わなければならない大変さ、私も身に染みてよくよくよくよく分かります。

 5月6日、長嶋さんを始めとする女性ボーカルバンド3組にて予定通りライブを開催。私、実はとても楽しみなのです。傷女融解を観られないのは残念至極ですが、こういう非常時ほど誰も想像できない途轍もない爆発の仕方をするのが長嶋水徳の真骨頂。「反骨」という言葉の真の意味を体現してくれること間違いなしなのです。なんでそんなことが言えるのか?過去に何度もそれを見て来たからです。逆境こそが彼女のホーム。順風がアウェイ。それが長嶋水徳。 

 

 なんやかんやとエラそうに、私は一体何者なのだW? 何者でもいいじゃん。色々起こったその果てに新しい世界が開ければいいじゃん。やっと開けたその新しい世界を惜しげもなく捨て去り突き破る終わることのない外への衝動に貫かれた人生、最高じゃん。私は、その人生を生きている者です。その人生を生きる者たちの味方です。

 

                                               

 了