(1)

 

 

それは 場所ではない

それは 場所でしかない

そのどちらもの外を生きている

外は その外の外なのだけど

 

 

届かない手紙

残骸を巡る旅

 

 

最後の夜

陽が昇ってしまえば7か月ぶりの日本へ向け旅立つ

最後の夜

あの部屋はもう引き払った後だったから

ミッドタウンの安ホテルの一室で

ふたりきりで

夜通し 朝まで

空っぽになるまで語り尽くした

ネグリルの栽培農家のドラム缶から直のハッパでさえ効かない特異体質

だから僕は

50St.の顔馴染みのデリで手に入れるコークの愛用者

赤い缶のコークをカウンターに置きその陰で受け取る白い粉のコーク

最後の夜だから

僕が持ってたヤツ

ふたりで全部使い切ってしまおう

 

君は

僕の目に悪魔が宿っているのだと言った

僕の滞在中

君とシェアしたあの部屋での暮らし

君は何度もゾッとしたのだと言った

羨ましいのだと 君は言った

同じ表現を志す者として

僕の脆さが 僕の弱さが

僕の寂しさが 僕のしなやかさ

僕の鋭さが 僕の特異さが

羨ましいのだと 君は言った

君は言った

最後の夜に

白い粉を幾筋も吸い上げた後に

 

"特異″?

 

あの夜

あのホテルのロビーに溢れていた日本人観光客の熱と臭気

あの群れを平準と

僕らを特異と

あの夜

僕らは思っただろう

そして同時に平準など無いと

特異など無いと

思っただろう

特異と平準を対比させるその次元の内に特異など無いと

その次元の内にある多次元に特異など無いと

思っただろう

君が消える

僕が消える

僕らが確かに生きた時が消える

 

"表現″?

 

青臭く繊細でシャイでピュアで

自己否定の波に呑まれて閉じる

優しい気遣いをしてくれながら

自分自身の優しさに苛立つ

在りたい自分が掴めてないのに

そこに届かない自分に苛立つ

満たされる術を掴めてないのに

満たされていない自分に苛立つ

君を描くと

僕になってしまう

君を描くと

青になってしまう

青の一般

誰にとってもの青

君が消える

一般の内に

どれだけ特殊な君を描いても

それは一般の内に消えてゆく

描くと消える

君が消える

君を消すのが表現なのだから

 

出会った時

君は18歳 僕は19歳

日本での全てを断ち切った同士

断ち切ったから

何も無かった

歩むべき道が

何も無かった

何も無いから日々ただただ不安で

断ち切るとは何なのか考える

死なない自殺の共犯者として

互いの内の互いを考える

届かないのだ

何をどうしても

君に届く僕は僕ではない

僕を描くと僕は消えてしまう

僕を消すのが表現なのだから

そして

同時に

君に届く僕しか僕ではない

君に届く僕しか僕ではない

君に届く僕は僕ではない

君に届く僕しか僕ではない

どちらもが全く同時に成り立つ

平気で成り立つ

成り立っている

誰も気づかず誰も見ようとしない

根っこの根っこの裂け目の上で

あらゆる表現が裂かれている

裂かれながら 裂かれず そこに在る

生まれ続け誰かに届き続け

誰かの心を震わせ続けている

誰も気づかず誰も見ようとしない

根っこの根っこの裂け目の上で

あの最後の夜の その後の

35年間僕はひたすら

表現することへの根源的な違和が

僕の表現の根源なのだと

思い続け書き記し続けてきた

届かない手紙を書き続けてきた

あの死なない自殺の真の意味を

君と過ごした時の真の意味を

伝えたい君に

伝えられない

届かない手紙

残骸を巡る旅