外へ

 

それは外へと駆り立てる

唯一であることへの希求

 

己を満たす全ての絶対の その外へ向けそれは炸裂する

 

見えない制度 変わらない関係 己を存在させる全条件

絶え間ない交通 限りない更新 己を維持させるあらゆる構造

 

絶対が己から己を奪う

 

使命を果たし報われる充実 増え続け燃え滾り続ける欲

孤独を溶かす甘く黒い万能 全てを置き去りにする速度と距離

喜悦に蕩け苦痛に引き攣る肉 揺さぶり引きずり回す炎熱の情

生を確かな意味で満たす物語 揺るぎなく温かい至上の救い

絶対を絶対から解き放つその都度の相対という絶対

絶対を絶対として認知する既に絶対の内にある思考

 

己を満たす全ての絶対は 絶対の果てで己の名を奪う

己は己の名を持ちながら どこにでもいる無名の誰かとなる

 

それは絶対を喰い破る 絶対の外へ向け猛り叫ぶ

それは奪われたものを奪い返すため 内を 己を 殲滅し続ける

記憶の外へ 均衡の外へ 憧憬の外へ 運命の外へ

普遍の外へ 流転の外へ 生活の外へ 未来の外へ

 

全てに巣くいはびこる真空の虚無 あらゆる対極を呑み下す

きりの無い 底の無い 果てしの無い 闘う術など無い 無色の影

全ての絶対に虚無は取り憑く 全ては不変のまま一変する

既に奪われてある己から虚無は 重ねて奪う 根こそぎ奪い尽くす

 

無名の己が並べられる 無名の己の横に並べられる

無名の己による無限の列 重力は絶える 全ては宙に舞う

 

それでもそれは唸りを上げる 宙を踏み付け宙を裂こうとする

外へ

外の外へ

外の外の外へ

外の外の外の外の外の外へ

行き着く先が死であるならば それはただ死へ向かい 突き進む

行き着く先が死であるならば それは死の外へ向かい 迸る

死の外の己

無名の外の己

誰とも重ならず消し去られない 無名の外の己を 刻み付けること

 

それは外へと駆り立てる

唯一であることへの希求

それは外へと駆り立てる

狂い暴れるそれの名は 衝動

 

 

 

何かが違う  違和が貫く  全てが伝わるのに  伝わらない

 

 

 

 

外から

 

それは外から襲い来る

唯一であらざるを得ない強制

 

それは全ての起源  全ての根底

あらゆる能動がそこから生まれる最初の一撃 最深の基盤

 

それは全てを生み出し育み保つ

己を作り 守り 保証する

命を与える 形を与える 壊さず絶やさず生かし続ける

他の誰とも違う名前を付ける 己を己として識別する

 

それは卑小な日常を噛み締め生きる卑小な己に名前を付ける

瑣末な雑事に振り回され生きる名も無い己に名前を付ける

幻が満ちることを許さない 無限も反復も許さない

無名であることを何より許さない

名前を付ける

名前に閉じ込める

 

それはそれを感じさせ 思考させる

自由に思考させ 行動させる

出口を求める者に出口を与え

出口が入口だと気付かせる

そもそもが逆

矢印が逆

全てはそれが産み落としている

 

それは打ちのめす 屈服をさせる 這いつくばらせ頭を踏み付ける

不安を埋め込む 恐怖を突き刺す 否も応もなくそれは既にある

震え凍り付き泣き叫ぶたびに

思い知る 抗えない 逃げられない

 

傷付き崩れた己をそれは 背後からも刺す 心髄を抉る

己が傷付け踏み付けた者の叫喚でそれは己を破砕する

消せない 忘れられない 己の罪 思い知る 思い知る もう 逃げられない

 

それは己の限界を突き付ける 己が何者なのかを突き付ける

己の意図が遥かに及ばない全方位の彼方から突き付ける

力を突き付ける 数字を突き付ける 戦慄する己を従わせる

敗北を突き付ける 死を突き付ける 望みを絶つ 全てを終わらせる

無名の己なら終わりはしない 代わりは無限にいる 終わらない

それが終わらせるのは名を持つ命

他の誰でもない 己の命

 

それは外から襲い来る

唯一であらざるを得ない強制

それは外から襲い来る

その外が無いそれの名は 現実

 

 

 

何かが違う  違和が貫く  全てが伝わるのに  伝わらない

 

 

 

 

〔外〕

 

"己″は決して唯一ではない "己″はどこにでもいる 無数にいる

唯一なのは"この私″ 他の誰でもない"この私″

 

"この私″は唯一ではない あの人にとってのあの人も"この私″だから

唯一なのは"この この私″ 私にとっての"この この私″

 

"この この私″は唯一ではない あなたにとってのあなたも"この この私″だから

唯一なのは"長嶋勲″ あなたは"長嶋勲″ではないのだから

 

"長嶋勲″は唯一ではない あなたにもあなたの"名前″があるのだから

唯一なのは "これ″なのに "これ″が無ければ一切は 無いのに

 

唯一は伝わる 余す所なく 何から何までが 伝えられる

他の誰でもない"長嶋勲″としてあなたは受け取る 全てを理解する

そうではない

違和が切り裂く

鮮血が噴く

唯一は 伝わらない

"これ″が伝わらない

どうしても"これ″が

意味の量も質も血を止められない

何もかも全てが伝えられるのに

伝わる唯一は唯一ではない

 

それはここで 今 息衝いている

"唯一である″という そのこと

それはここで 今 引き裂かれている

鮮血に塗れたそれの名は 伝達

 

伝達が無ければ血は流れない

真の〔外〕は あなただ

私を〔唯一〕にする真の〔外〕

それは今 これを読んでいる あなただ

言葉を尽くし心を尽くし 伝える

全ては伝わる 伝えられる

同時に気付く 血飛沫の直中で

外は〔外〕としてしか 伝わらない

今 外は切り裂かれ血に染まり〔外〕に

唯一も血みどろにされ〔唯一〕に

そして〔外〕は〔外〕として伝われば

既に〔外〕ではない

伝わればもう違う

だからこそ鮮血は噴き上がる

全てが伝わり 伝わらないからこそ

 

私は あなたへ 伝えている

〔唯一〕を 〔外〕へ 伝えている

伝われば既にそれではないものを

血達磨で 今 伝えている

〔外〕が無ければ〔唯一〕は在り得ない

鮮血無しの伝達は在り得ない

これこそが〔唯一〕

あなたこそが〔外〕

鮮血は降り注ぐ

誰にも見えなくても

 

 

 

何かが違う     〔外〕の外へ

 

何かが違う     〔外〕の外から

 

 

 

                                   

                         了