・ 凸業式

 

 スフェリシティで1、2を争うおぼっちゃま高校へ通ってはいるが、アオヤマくんは手の付けられない不良学生。タバコを吸ってみようと思い立った。手に入れたのはいいけれど、シティのどこへ行っても吸う場所がない。路上は禁止。店内は禁止。校内は禁止。乗り物内は禁止。それでも数箇所喫煙所を探し出し前を通ってみたけど入る気が起こらない。狭い囲いの中にギュー詰めで押し込まれフィルターに吸い付く大人赤ちゃんたち。カッコ悪いな。タバコは諦め、盗んだバイクで走り出そうとした。盗み方が分からない。どっかの線と線を直でつなぐとエンジンが掛かるはずなのに、ネットを見ながらやっても上手くいかない。人が来た。諦めよう。ピンボールのハイスコアを競い合おうとしたが、そんなゲームを一緒にやってくれる友達がいない。何よりシティのどのゲームセンターにもピンボールが無い。諦めよう。力だけが必要だと頑なに信じてみたが、アオヤマくんより力持ちが同級生の大半だったので力以外が必要だと方向転換した。不良アオヤマ、極悪非道の3年間を生き抜いた。

 卒業式。と言えばやっぱり御礼参りでしょ。鋭い視線。殺気溢れるアオヤマくんは職員室の扉をブチ開け突撃した。教師の席を一つずつ回り、3年間の御礼を伝えてきた。どうだ、御礼参り。タロはそれでいいんだと微笑んだ。アオヤマくんは立派な不良学生。この支配からの卒業、おめでとう!

 

 

 ・ 乳社式

 

 入社式に母親同伴で参加すること。面接試験でその条件を聞かされた時、乳製品を扱う会社だからそんなクリーミーな感じなのかとミツヤマさんは思った。よくよく聞いてみたらちょっと違った。社長の信条。母親と温かい関係を築ける子供に悪い人間はいない。たっぷり愛され育てられている。人を愛することができる。人の痛みが分かる。優しく温かく人と接することができる。同じ温かさを共有する社員みんなと笑顔で仲良くやれる。快適極まりない職場を築いていける。母親を大事にできない社員は要らない。あなたはどうですか?お母さん、大好きですか?

 タロはこっそりミツヤマさん母子の陰に隠れ入社式会場に忍び込んでみた。あちらこちらで仲良しこよしの新入社員母子。そういう会社なのだから仲良しアピールが出世につながると思っている母子もいるだろう。そのための過剰な振る舞いももちろんあるだろう。でもそうではなく、まったく無理なくナチュラルに仲良しべったりの母子もたくさんいる。仲が良くって何が悪い?悪いことなんかない。こういう会社こそが未来を担う会社なんだとタロは自分に言い聞かせてみた。

 数ヶ月後。新入社員のほとんどが辞めていた。仕事は社内だけで完結する訳ではない。冷たい社外の人間を相手にする時には冷たい痛みがもちろん待っている。社内に逃げ戻ると、同じ温かさを強要される温かい圧力が待っている。その挟み撃ちにどうにも耐えられず、優しいみんなは次々と辞めていった。ミツヤマさんは残っていた。ほんとはお母さんと仲が悪い。就職するために嘘をついた。そのミツヤマさんが会社の力になり踏ん張り頑張り過ごしている。乳と蜜の流れる場所はほろ苦い。甘い蜜はヤバい。タロはちょっと大人の顔で考え込んだ。

 

 

 ・ 転職式

 

 スフェリシティの新首長、初の女性首長のカワクボさん。就任早々驚きの政策を打ち出した。それまで勤めていた会社を辞めて転職する人たちを応援するためにシティ主催で式典を開く。賑やかに転職をお祝いし、会社を辞めること、仕事を変えることに未だに付き纏う暗い後ろめたさを消し去ってあげたい。向いてない仕事を辞めるのは当然。向いてる仕事に変えるのは当然。転職万歳。堂々と胸張って明るい未来へ歩いて行こう。シティは皆さんを応援します。お祝いします。式典へいらっしゃい。

 新首長の単なる就任アピール。派手な企画を打ち出していかにもな「やってる感」を示したいだけ。会社を辞めるのに、代行業者に頼む人もいる昨今。そんな式典に来る人なんかいない。誰もがそう思う。カワクボ首長はその上を行った。当日式典に来た人にだけ、転職に必要な物品を買い揃えるための転職応援金を配布する。来ない人にはやらない。来た人にだけ。途端に参加希望者が殺到した。予約できる席数は限られている。それを最大限まで増やして対応した。当日は大変な人手になるだろう。

 式典当日。カワクボ首長は壇上にいなかった。除籍を卒業と書き換えた学歴詐称が明るみに出て職を追われた。前首長は参加者席にいた。転職応援金を受け取って、次の就職先を探すのだという。それも転職。いろいろあるな。タロはもう一度大人の顔でじっくり考え込んだ。