刹那の青シーファー | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

刹那の青シーファー

5月も下旬に差し掛かった今時分になって、ようやく「意中の1本」とじっくり向き合うゆとりが持てた。
アンスガー・クリュッセラート醸造所の2012年産トリッテンハイマー・アポテーケ・リースリング・トロッケン。

何しろこのリースリングと来た日には、コルクを抜いてから刻々と変貌を見せるその様子は留まるところを知らず
後戻りもせずに一気に駆け抜けて行ってしまうため、片時も気を抜いていられないのが常である。
おまけに翌日以降はまるで持てる力をすべて出し尽くしたかのようにその輝きを失って行く、そんな刹那の1本。
とてもじゃないが日常の慌ただしい晩酌に紛れて開けるには向かない、特別なリースリングであり
個人的にはこれを、「モーゼル・ザール・ルーヴァー産の辛口リースリング3傑」の1つに挙げるものである。


ごく僅かに緑がかった明るい黄金色。注ぐとグラス壁に細かい気泡がポツポツと目立つ。
まず最初にマンゴー系の黄色いフルーツの香りと、若干ナッティーなニュアンス。
スワーリングすると黄桃や黄色いバナナ、パイナップルなど果実の香りが賑やかとなり
微かにシーファー的な鉱物香も顔を覗かせる。(註・Schieferとは粘板岩の意。モーゼルの典型的な土壌)

口当たりは充実した果実味と引き締まった酸、続いて凝縮度満点のミネラル味。かなり濃厚。
ホロ苦い余韻は軽めながらも苦汁系。肉厚で実入りのしっかりした果実味は
残糖が絞られているにもかかわらず甘く、そして美味く、マンゴーやココナッツミルクを思わせる。
このあたりはマロラクティック発酵の故か。少し歯に沁みる酸はアタックこそ少々刺激的だが
その後はまるで単独行動をとっているかの如くにあらぬ方向へと主張する。

抜栓してからしばらくはリッチな果実味のせいでミネラル味はあまり前に出て来ない。
それが時間とともに土臭いシーファー香が幅を利かせて来る。
味わいも果実主体から鉱物主体へと移り変わるいつものパターン。
もう少し全体に調和と言うか一体感が出た頃にでももう一度じっくり味わってみたいものである。

翌日。シーファーとナッツのフレーヴァーが主体で酸と果実味の影は薄い。
3日後。相変わらずミルキーで少し鉱物的な香り。酸とミネラル味が少し引っ込み果実味が前に出ている。
いつもの事ながら、初日と翌日以降のギャップが激しいなぁ。89/100


ワインを色々飲んでいると、開けた日に凄く美味しかったけれど翌日はパッとしなかったって事、よくあるだろう。
逆に開けた日はガッカリさせられたものの、日を置いて飲んでみたらビックリするほど良くなっている事もある。
こんな飲む日によってギャップが大きい場合、最終的にどっちのタイプの方が強く印象に残るのだろう?

個人的にはやはり前者の方だと思う。凡人はとかく最初の良いイメージに引き摺られるものである。
最初良ければすべて良し。自分には無い刹那主義が格好良く映る所以である。
(過去のヴィンテージ→2011年産2010年産2009年産2008年産

2012 Trittenheimer Apotheke Riesling Qualitaetswein trocken
Weingut Ansgar Cluesserath (Trittenheim/Mosel)

A P Nr 3 607 269 09 13,Alc 12%vol,18.00€