不思議に思った | 0.0のブログ

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しなかった。高比古の望みを叶えようと、暗闇の中で狭霧が着替えの帯を探している間も、高比古は狭霧を放そうとはせず、荷を探っていないほうの左手を、きゅっと握っていた。

「あった。――結ぶね」

 手首と手首を紐で結ぶと、高比古は、ようやくほっと息を吐く。

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「ああ―――」

 真昼の落ち着きが嘘のように、今の高比古は、憔悴して見えた。何度も恐ろしい瞬間を覗いた後のように、冷や汗をかいて――。

 狭霧は、おそるおそると尋ねた。

「あの、何か、幻を見たりするの? 例えば、わたしがいなくなるような……」

「何もないよ――。ただ、巨大で、不気味なものがおれを向いて、おれをそばに呼ぼうとするんだ。呼ばれたと思うと、その瞬間に怖くなる」

「呼ばれるだけ? こっちへおいでって?」

「ああ。――呼ばれている」
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「どんなふうに? 声とか、聞こえるの?」

「――声は、しない。――これは、なんなんだろうな」

 話をするうちに、高比古の様子は落ち着いていく。

 狭霧を抱き寄せる腕も、はじめは固くなるほど力がこもっていたが、今は、やんわりと背中を囲うだけになる。声からも緊張が薄れ、いい方はゆっくりになった。

「御津を見つけて、そこにたどりついたら、おれはいったいどうなるんだろう――。でも、いかないと……」
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「いかなくちゃ駄目なの? 杵築に戻ったり、ここを離れたりしたら――」

「できない。いかないと――」

「そうなの……?」

 高比古がいい切る理由が、狭霧はわからなかった。

 でも、それが高比古の望みなら――と思うと、せめて彼を楽にしてあげたかった。

「だったら、明日も道を進まなくちゃ。すこし休もう?」

 背中に腕を回したまま、とん、とん……と、童を寝かせるように手のひらで上腕に触れる。

 高比古は、苦笑した。

「――ありがとう。――あんたも、休めよ」

「ううん、いいよ。わたしなら、高比古が寝つくまでこうしているから」

「いいんだ。おれは、あんたの寝顔が見たい。そうしたら、落ち着くから」

 暗がりの中で、高比古は一度、悩む風に口を閉じた。それから、狭霧にせがんだ。

「なら、一つ、頼んでいいか」

「うん、なに?」

「なあ、前にさ、歌を歌ってたろ? 須勢理様が生きていた頃、あんたに歌ってたっていう子守唄――」

 それはたしか、宗像での話だ。

 まだ、二人で一緒にいると互いに緊張して、気を遣い合っていた頃。狭霧は、高比古の隣で、母がよく歌っていた子守唄を口ずさんだことがあった。

「子守唄? ああ、うん――」

 どうして今ごろ、あの子守唄を思い出すんだろう――?

 それは、不思議に思った。でも、断る理由などなかった。

 高比古は、しきりにその歌を聞きたがった。

「あれ、聞きたいな」

「――うん」

 息を吸うと、ゆっくりとした節のその子守唄を、小声で歌った。とん、とん……と、高比古の肩のあたりを、手のひらで撫でながら――。

「昼のあいだは ひとつはふたつ。夜になったら ふたつはひとつ。わたしはあなた あなたはわたし。ねんねの向こうで 一緒にいよね。明日になったら また遊ぼ……」

 歌が終わると、高比古は、狭霧の耳もとで笑った。

「心地いい歌だな。――おれが知らなかった感じだ」

 高比古は手のひらでゆっくりと黒髪を撫で、それから、つぶやくような小声で囁いた。

「前に……いおうと思って、いうのをやめたことなんだけど……今、とてもいいたくなった。聞いてくれるか?」

「――うん?」

 高比古は、自分の顔を狭霧から隠すように耳もとにくっつけて、小声でいった。

「おれ――いつか、あんた