風の音にぞ驚かれぬる

とは、藤原敏行の有名な和歌の下の句です。
上の句は季節がことなるので、ここでは触れません。
僕は、なぜか「風」が心にかかりるのです。

あなたは、風の音をどのように聞くでしょうか。
まるで洞窟の中で聞く風の音のように、
耳にこだまするのは「ゴーゴー」という音ではないでしょうか。
なるほど耳のかたちは洞窟に似ています。

目には見えない風が、耳の中で「ゴーゴー」と鳴る、
僕の子ども心に、不安をかき立てる思いをしたことは
記憶の底に眠っています。
だらかこそ、あらためて思いを探れば
実は、今も風の音を聞く度に不安が心に迫るのです。

以前、僕は群馬に出張したことがありました。
その時も、よく風が渡る日で、
僕は、時間を見つけて赤城山麓の公園に行きました。
関東平野が一望できる場所で、
山から山麓へ、風が吹きわたっていました。
僕の心は、その風に乗って関東平野を超え、
太平洋を跨ぎ、世界を駆け巡る思いでした。
その時に詠んだ詩です。
やはり季節が合いませんが、

秋の空は
青く高い
風は雲を呼び
山は雲を起こす
巍々堂々の山々は
くっきりと輪郭を現す
木々は秋に染まり
大地にくっきりと
影を落す

遥か関東平野は
かすかに煙り
風はその上空を
轟音を立てて
強く強く吹き抜ける
時を追い駆け
大海を渡り
世界をところ狭しと
悠然と駆け渡る

あの刹那
僕を
強く吹き抜けた風は
深き縁の二人の
魂を固く結び
秋空に高く青く
舞い上げた

もちろん風にも色々あります。
やさしい風、激しい風、
冷たい風、温かい風
しかしながら、
どの風も、なぜか僕の心底に不安を呼び起こします。
水平線のかなたに、白雲が湧き上がるように、
なぜか、不安が湧き起こってきます。

あの風はいったい、どこで生まれ、どこへ行くのか。
僕は何を求めているのか。
風の正体はいったい何か。
今も
僕はその風の前に
静かにたたずんでいるのです。