渡米4

渡米でのもう一つの出会いは
1冊の本との出会いでした。
実感で言えば、
本ではなく1人の日本人との出会いです。

渡米の直前から
本を読み始めた話はしましたが、
1つ小説を紹介されました。
その時は
暇つぶしに読んでみようかと思った程度でしたが、
冒頭より、急速に引き込まれていきました。
小説のかたちではありますが、
史実にのっとった内容で、主人公は実在の日本人でした。

僕は、はじめて知るその主人公に魅了されました。
「こんな日本人が居たんだ。なぜ知らなかったのだろう」と
当然、それほどの読書家ではなかったわけですから、
少しいき過ぎた感想ですね。

その物語は戦中、主人公が思想犯として牢獄に入れられ、
敗戦後に出獄するところから始まります。
僕は、アラバマ州モービルの
カレッジの中庭の草の上に寝ころんで読み進めました。
その時のことが今も、
草の香や木々の色づき、季節の移りかわる光景とともに
眼に浮かんできます。

小説では、その主人公を師事する1人の青年が現れます。
僕は、不思議にもその青年の登場を予感していました。
というより、それは僕自身でした。
以降、僕はその青年として、小説の中にいたような気がします。

僕の好きな司馬遼太郎氏著作の「竜馬がゆく」の中にも
同じようなシーンが描かれています。
千葉道場の子息と、勝海舟の暗殺に向かった竜馬が、
勝の思想やその人間性に直に触れ、
竜馬はその場で師事をを願うのです。
驚きです。180度の方向転換です。
その証拠に、千葉道場の息子はあっ気にとられ、理解不能です。

人との出会いは
それほどに大きな意味を持つということでしょう。
「師弟」とは言葉でもなければ、かたちでもありません。
また、時間でもありません。
実感であり、100%の信頼です。
果たして、そんなことがあると思うでしょうか。
それがあるのです。
そんな出会いができた人は幸せです。

僕は、幸運にも「師」と仰ぐ人がアメリカできました。
日本に帰国して
僕が最初にやることは、その人に会うこと。
当時、僕はそう心に決めていました。
でも、その人はすでに逝去されていたことを
帰国して知りました。

続く・・・