日本人

先日、海外商社の社長に英語を学ぶコツをうかがいに行った。
社長は「堂々と論陣をはれるようになりなさい」と言った。
英語はあくまで技術であり、手段であるのだから、
自分の意見を持たなければ、学ぶ意味がないとの意であろう。
僕は、即座に「堂々と論陣をはれるように英語を学びます」と答えた。
社長はニッコリと笑みを返してくれた。

僕の好きな作家の1人に童門冬二氏がいる。
かつて童門氏からなぜ作家になったのか
その理由を聞いたことがある。
学生時代に戦争を経験され、日本人に失望したという。
或る教師が、戦中あれほど賛美していた二宮金次郎を、
戦後、校庭にある二宮像を引き倒す先頭に立っていたというのだ。
人の心は卑しい。状況に流されやすい。
日本人への失望が、童門氏の心を占めたに違いない。

童門氏は、その失望を自らの力で取り除くべく
過去に、誇りを持てる日本人を探したようだ。
そこで、出会ったのが内村鑑三氏の著作「代表的日本人」。
童門氏は、「よし、いつかこの『代表的日本人』に挙げられた5人を
1人ひとり小説で描いてゆこう」と決めたそうだ。

自国への誇り、
これは日本人に限らず失ってならないものだと思う。
とはいっても、右翼を讃美するものでは全くない。

今、読み進めている小説「黄金旅風」(飯島和一著)に
「彌兵衛はそれまで見た日本人とはまるで異なって見えた。
 何処であろうと、誰が相手でも全く対応に変化がなかった。
 すべては己の意志であり、責任の所在もすべて己にあると
 彌兵衛ははっきり示していた」とのくだりがあった。
江戸時代、鎖国状況の中で彌兵衛は、海外貿易に従事していた。
その彌兵衛の外交の姿勢を通訳の眼が捉えたものだ。

僕は、この“日本人らしからぬ”と見えたところに、
本当の日本人らしさが感じている。
つまりは、日本人らしさやその誇りは
世界に通じる人間の核であると思う。

冒頭の社長の言葉は、まさにそのことを示唆したものだ。
僕は、周囲に恵まれている。ありがたい。