渡米


虚しさが心を占めていた。
「このままでいいのか」
そんな問いが、常に心に浮かんだ。

僕の父は口癖のように、僕が何かをやると
「本当にそれでいいのか」と繰り返し問った。
何度も問われる自信や喜びは、徐々に不安に変わる。
「本当、いいのだろうか」と

そんな癖がついたのか。
僕は、何かにつけて自問自答が多いようだ。
その問の答えを見出そうと
読書の嫌いな僕が、貪るように本を読むようになった。
夏目漱石の「心」は、その時、
非常に読みたいという渇望に襲われた1書だ。
そして映画を見た。
その時に見た「植村直己の生涯」が心を大きく動かした。
映画の中で植村氏は叫ぶ
「僕は、生死をかけた登山の中で生きていることを実感しているのだ」と

僕に足りなかったのは、その生きている実感だった。
それが僕の渡米の理由だ。
英語は全くしゃべれない、知人に経験者がいるわけでもない
大学の途中、軍資金もない。
すべてが今行く理由を否定していた。

僕の心だけが、ただ現実を振り切って渡米へと突き動かしたのだ。
僕は大学2年を終えた夏、単身北米・アラバマ州モービルへ旅立った。
続く・・・