夫・光良の簡易版精神科診断書が出た。
妻・純子はそれを彼の会社で待つ鬼縞部長に
手渡さなければならない。
たかが封書一通である。
80円でじゅうぶん、郵送できる。
だがそれでも、鬼縞部長は
「持ってこなければ取りに行く」
と言うのだ。
彼のストレスの原因の大半である部長に、うちに来てもらう
わけにはいかないので、私が行くはめになったのだった。
たぶん…私からしたら生活上何の接点もない業種の企業だし、
そこの部長とか言っても「ふーんへえーそうですか」くらいの
感想しか持たないのだけど、
田舎であるがゆえに地元では絶大な権力のある支店であって、
(中央からしたら無名なのにね、地方だから地元ではね)
鬼縞部長はどうも他人は自分の言うことをきいて当然、
と思っているフシがある。
彼以外にも毎年、
どこかしら心身の調子を崩して休暇をとらざるをえない
状態に追い込まれる社員が出る支店だ。
そんな社員の家族を呼び出すことに慣れていて、
妻なんだから職場に来て当然、
と考えているようなのだ。つかれる…。
私が面談を避ければ、話は義母の志麻代さんにもっていかれて
私はラクだが、それでは光良の保護者の役割を、
義母に譲り渡したことになってしまう。
それゆえ、痛む胃をおさえながら彼の会社へ行くのであった。
このシリーズのこれまでのあらすじ、そして利用上のご注意は
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電車にごとごと数十分揺られて、タクシーを使い彼の会社へ。
私は甘かった…。
診断書をおけば、すぐに帰してもらえるんじゃないかと思って
いたのであった。
でもそれは、ただの願望にすぎなかった。
願望はダメ。
支店長と初対面。
ただあいさつするだけかと思ったが、気を遣ったのか
支店長は私と出身高校が同じだなどと話し始めた。
高校の思い出話を。
私ですら、もう十ウン年前のことである。
支店長にとっては、ず~~っと昔のことだろう。
よくそんな昔のこと、覚えているなあ。
私なんか高卒後浪人のち慶應行ったり家出したり
駆け落ちしたり同棲したり親と闘ったりしてきたんで、
そんな昔のこと、もう忘れちゃいました!!!
私の返事が「はあ」「そうですか」みたいにノらないのを
見て、ようやく支店長は
「で、彼のことだけど…ウチではどうしてるの?」
と今日の本題に入り始めた。
支店長なりの気遣いなんだろうけど、
高校がどうたらとか、前置きいいですから。
そんなことしていただいても、
緊張とれないですから。
早く用件を話して早く帰りたい。
一刻も早く。
応接室で鬼縞部長と支店長
(支店長は年配男性)に囲まれて、
彼の病状やらを説明することになった。
私が。
この前、5日前に義母と私と鬼縞部長が面談したとき
病状の説明はしてあって、それから何の進展もないのに
さらに最初から説明しろと言うのだ。
とっくに話してあるんだから、
部下の鬼縞部長から話きけよ、
というより何できいてないんだ?
とは思うけれど、まあいいでしょう。
支店長としては当事者からききたいんでしょう。
話してやろうじゃないの。
だが…支店長は、
鬼縞部長を超えるキャラ
であった。
チャチャが入るので、なかなか話が進まない!!
「彼は家で安静にしています。ときどき、
私と夕飯の買い物をしたり図書館まで
散歩したりして気分転換しています」
支店長「彼は映画とか見ないの?」
「…見ませんが?」
支店長「本は読んでいるのかね」
「あまり読んでいないですが」
支店長「新聞は読んでいるのかなあ」
「新聞はとっていませんので」
…なんか質問、細かいんですけど(爆)
なぜ、そこまでこと細かにきいてくるんだろう。
支店長たるもの、そこまで把握する必要があるんだろうか。
それとも、ただなんとなく思いつくことをきいてるのか。
支店長との神経衰弱問答の中、
ついに診断書を開ける運命の瞬間がやってきた。(つづく)