結婚三年数ヶ月の夫婦、純子と光良に訪れた危機。
この「××の戦い」シリーズは、たてまえフィクションです…。
光良が今年から転勤した某会社の銀山支店。
支社長の朝礼あいさつで、彼は恐ろしいことを聞いた。
「今年はまだ、
病気で休む社員が出なくてなによりです」
…なんと、銀山支店では、毎年のように心を病んで
休職する社員があとをたたないというのだ。
県内のいろいろな支店をめぐってきた光良だが、
10年以上にわたる勤務経験のどの支店でも、
この銀山支店のような状況は体験したことがなかった。
それでも、彼はがんばった。
夜も休日も仕事を家に持ち帰っては、妻にぐちもこぼさず、
黙々と仕事をしてきたのだ。
だが、彼のからだとこころは悲鳴をあげはじめていた。
「おれが、今年の休職第一号になっちゃいそうだよ」
通勤途中、運転時に激しい動悸のため、
帰宅した光良のつぶやきに、私は返事を思いつくことが
出来なかった。
私自身、からだの不調で今年はけっこう病院通いをした。
乳がんの疑いアリで検査になったとき、
告知に付き添うため、光良は有給休暇をとって一緒に来てくれた。
それが、銀山支店の鬼縞部長ににらまれる原因となってしまった。
「まだがんと決まったわけじゃないのに、
休みをとるわけ?!」
労働者として当然の権利である、有給休暇。
だが、良き家庭人=良き社会人ならず、なのか。
妻の健康を理由に休暇(1日だけだが、数回)をとった彼を
上司である鬼縞部長は快く思うはずもなかった。
私の健康状態、そして職場での居心地の悪さ。
それらが総合的に、光良を追いつめたのか…。
彼が帰宅してしばらくたつと、一本の電話がかかってきた。
私は、目をうたがった。
電話に出た光良が、何事かにあいづちを打ちながら、
奇怪な行動を取り始めたのだ。
(つづく)