この「××との戦い」はたてまえフィクションです。


結婚して3年、平穏に暮らしていたつもりだった純子と光良。

しかし、光良の体調に異変が…。



精神科で軽い精神安定剤(抗不安薬)を処方され、

落ち着いたように見えた彼。



だが、それから3ヵ月後の午前のこと。

一本の電話がかかってきた。


純子「はい」


光良「もしもし、おれ」


電話は、朝元気に出かけたはずの夫・光良からだった。

せっぱつまった口調。

いったい、どうしたのか。事故でもあったのか?!



私は急に不安に襲われた。


話をきくと、彼は車で通勤途中激しい動悸がして、運転続行が

不可能になったのだという。


運転していると危ないので、今はとりあえず路駐して休んでいると。



私は免許がないので迎えにもいけない。


純子「ストレスかなあ。どうしよう。どうしたらいい」


光良「休み休み、今から家に帰るよ。

 職場には、今日は行けないって連絡入れるから」



私に出来るのは、家でただ待つことだけだった。



ストレスで、自律神経が失調しているのではないか。

心療内科にかかる必要が、あるかもしれない…。



とにかく、彼に休養させなければ。


私はそう決意した。



家事も手につかず、ただ彼の帰宅を待つやるせない時間。





一時間もしただろうか、ようやく鍵のあく音がした。


私はアパートの玄関へと走った。




そこには、疲れきった表情の光良がいた。



「…おかえりなさい」


「ああ」



光良は若いのにどこか昔気質で、家庭で仕事のぐちを

言わない男だった。


だから私は、彼の仕事がどんなに厳しいか、今まで知らなかった。


緊急事態になって、初めて彼は仕事のようすを打ち明けてくれた。




彼の職場は、全国展開する企業の地方支店、銀山支店である。

銀山支店に異動になったのは、今年からだった。

そこで中堅の彼は、新人の研修・教育を仕事にしていた。


しかし十代の新人くんたちは、意欲がなく辞めるものもあとをたたない。


話を聞いてみると、光良の熱意は、彼ら新人たちには届かず空回り

しているようだった。


十年以上勤務してきた光良がこんな状態になるなんて。


私もショックだったが、

当事者である本人のほうが余計にショックだったろう。

健康に自信があっただけに、なおさら。



去年まで勤めていた都会の五月蠅支店から、

地域でも「ど」のつく田舎として知られる銀山支店に異動したのである。

田舎と都会では、いろいろと勝手も違うだろう。


それが彼の負担となってしまったのだろうか…?




よくよく話を聞いて、私は青ざめていった。


彼の配偶者である私の存在こそが、

今回の遠因にもなっていたからである。


(つづく)