先日、研修医時代の お金さん の思い出を綴っているうちに、

学生時代のある人物のことを思い出したので、記してみる。



出来るだけ個人が特定されないよう配慮しますが、

K大で同じ学年だった方には想像がついてしまうかな…。





その人は、推薦入学で入ってきた人だった。


いつも隙のないかっちりした服装をしていてマジメな人だった。


多くの学生がサボりがちな講義にも、ほぼ毎回出席しているくらいの。




Tシャツ&デニムでカッ歩する学生が多い中、スーツ着用のその人は

社会人とみまごうばかりの落ち着きを放っていた。


歳若いのにスーツ…

私はその人の、ラフだったりカジュアルだったりする服装を見た

覚えがない。



服装なんて別に個人の自由なのだが(私なんてスウェットで行って

パジャマで大学に来たと思われたくらいだし!!)

その人には困ったくせがあった…。




あるとき、その人が


「今財布に大きいお金しかないんで、

小銭貸してくれない?」


と私に言ってきた。

私は快諾して小銭を渡した。



その人は


「ああJぴー、ほんとにありがとう!

助かるよ、絶対返すからね!」


と言った。



しかし、その小銭は…


医学部六年間在学中には返ってこなかった。


結局今に至るまで返ってこないのであった



小銭を貸したその次の日も、そのまた次の日も毎日のように

大学の講義・実習で私と顔をあわせるのに、である。





面と向かって小銭返してよ!


と催促するのもやりにくいし、それって


なんだか私が守銭奴みたいかなあと思い、



まあその人は、

誰もが認めるお金持ちのお子さんである。


そんなハシタ金のことなど、

いちいち覚えていないのだろう。


…と、私は想像して納得することにした…。




なにしろ医学部というのは


1学年100人が、

留年でもしないかぎり6年もにわたって

ず~っと同じクラス



なので、クラス替えに期待することも出来ず、

もしクラスメートとトラブったら居心地の悪いまま

残りの学生生活をすごさなければならない。



だから、できればクラスメートとはいざこざを起こしたくないのだ。


6年間気まずい思いですごすことを考えると、

トラブルのタネになりそうなことにはためらいが生まれるのだ。




そしてまたしばらくたったある日のこと。




「ねえJぴー、今日筆記用具

忘れちゃったから貸してくれる?」


と、またその人が私に言ってきた。



思えばそのときが「前に小銭貸してたよねえ?」と言うチャンスでも

あったのだが、私は自分がみみっちいと思われたくなくて、

その件にはふれずにシャーペンを貸した。


「ありがとう!

明日にはきっと返すからねー」


その人はそう言っていたが…


…以前の小銭の件もあるから、私には一抹の不安が…




(つづく)