あるときは一晩に60人の緊急患者を診て、
あるときはB国からの留学生の師となり、
ついにはB国の眼科の父の父とまで呼ばれるようになった
眼球先生(仮名)。
新入研修医も招いて飲み会が企画され、そこで眼球先生と
お会いできることになった。
おうわさは、かねがね…である。
場所は病院にほど近い小さな果実の名前を冠したレストラン。
知らなければ通り過ぎてしまうような地味な店だが、
実はここ、
かつて一流ホテルでシェフをしていた料理人が
営業している、知る人ぞ知る洋食の名店なのだった。
私も先輩医から教わらなければ、知らぬままだったと思う。
(牛テール煮込みシチューなんて美味しかったなあ。
もうかなり年配のシェフだったけれど、今もやっておられるの
かしらん)
講師レベルの上司たちに囲まれてただでさえ緊張する
新米研修医たち。
そこへ眼球先生がおごそかにご入店。
黙っているときにかもし出すサムライのような雰囲気は、
さすが相当の切れ者と思わせるのだが、
いったん話し出すとたいへん気さくな方で、
面白い話などをして新米研修医たちを笑わせてくれたりする
のだった。
ひとりの講師のドクターが、
「おいJ、
お前は眼球先生知ってんのか?
偉い人なんだぞー」
と問いかけてきたので
「知ってますよ!
B国の眼科の父の父でしょう。
オーベンの時、
外国人がネーベンについて…」
と答えるつもりだったんだけどっ。
お酒のせいなのか私は、うっかり
「知ってますよ!
B国の眼科の父の父でしょう。
ネーベンの時、
外国人がオーベンについて…」
と、言い間違えてしまったのだった。
ど失態!!
ネーベンのほうが、下っ端です。
オーベンのほうが、上司です。
私の答えは、つまり逆です。
私のやらかした失礼な間違いを眼球先生は笑ってゆるして
くださったが、ほかの講師レベルのドクターたちは
「留学生が
オーベンなのかっJ!!」
と叫び、ボケにツッコむ漫才師のごとく、
みなでいっせいに私の頭を
ぱちこーん!!
とはたいたものである…。
店内、爆笑。
あのときは痛かったな~、と今ではよい思い出になっているの
だった…。