最近、執筆の参考にと医師の本をよく読んでいる。


私が理想とするのは

西丸與一先生の「法医学教室の午後」シリーズや

浜辺 祐一先生の「救急センター」シリーズのように


専門的知識を小難しくなくわかりやすく説明し、

面白い中にも人間愛のスパイスが効いた粋な文章なのだけれども

どうもその境地には程遠い。修行あるのみ。



先日読んだとある に、驚きを禁じえなかった。


それは波乱万丈な経歴を綴った女医さんのエッセイ。


タイトルから想像するに医局とのあれこれから始まるかと思えば、

医学部受験前の高校時代のエピソードが羅列される。



思うに医学部合格前の話は切っても良かったんじゃないか。


たぶん著者には自分史として著したい気持ちがあるのだろうが

読者としては医局の話の方が気になるわけで…。



不思議だったのは著者が何故医者を志したのか

はっきり書かれていないこと。


親の希望だったことにちらりと触れてはいるが。


著者はすごいお嬢様育ちらしい


(失礼かもしれないが、借金まみれになって医学部に通い

卒後もローンを返し続けている私からすると、

ポンと大学近辺に家を買ってしまえたり、遺産がどうこうという
話が出る著者は裕福でお嬢様に思えるのだ。
私大歯学部の学費は余程高いのだろう)。

医学部~研修医時代の話は興味深く読んだが、
どこか感覚のズレを感じた。

何しろ解剖実習のことを
「くさい、きたない、きもちわるいの三拍子」
と書いてあるのだ。

それは感じたことそのままなのかもしれない、
だがご遺体に敬意を払っていたら
こんな言葉は出てこないのではないか?

薬品臭と幾らかの腐敗臭は実習の性質上避けようがない。

だがそれをくさいと言ってしまっては、身もフタもないと思うのだ…
(これが限られた人しか読まない単行本だからアレだが、ブログ等
ネットでの発言だったら炎上し祭が起きるだろう)。

著者が潔癖症らしいところは散見される。

内科研修中オーベン(研修医の直属の上司・教育係でもある)に
担当患者の直腸診をするよう指示され、
直腸診(指を肛門から入れて内部を触診する)がイヤなあまり
、他科にそれを依頼するのだ。

ここで私は驚いてしまう。

え~っ、内科研修医なのに他科に直腸診を依頼って…
ふつうしないのでは?!

肛門から指を入れるのが好きな医者なんていない(たぶん)。

患者さんの全身状態を把握するために必要な診察だから
するのではないか。

患者さんにとっても恥ずかしいし辛い検査だろう。

必要だから我慢して受けるのである。

なのに、主治医がイヤという理由で他科に頼むとは…
私には考えられない…。

ここで不思議なのは、著者が内科を選んだわけ。

直腸が苦手ならば内科ではなく眼科医や耳鼻科医など、
上半身専門の科を選べばいいのでは。
そういう科であれば、直腸診とは無縁でいられるし。

とまあ、育ちの良さゆえか著者の感じ方、
考え方は私と違っていていろいろと驚いた。

読んでいて感じるのだが著者はきまじめな人であるらしい。
途中でドロップアウトした私に言われるまでもないだろうが、
優秀な頭脳でしっかり業務をこなしている方だと思った。
女医ゆえの苦労やいじめシーンなどは共感できる。
ケッペキゆえ(?)の著者との感覚のズレにはついてゆけず、
複雑な気分で読み終えたのだった。