眼科研修医時代のこと。
大学病院外来は、ちょっと異様な雰囲気である。
2~3時間待ちでかもし出される独特のいらだった雰囲気は、
街の開業医にはないものだろう。
人の多さと長い待ち時間、ピリピリしたムードゆえに、
泣いてしまうお子様も少なくない。
外来のソファーでお子様をあやすお母様の姿がよく
見られたものだ。
いざ検査、と研修医とご対面するやいなや
ふえ~ん
と涙がたまり、顔をゆがめるお子様。
そんな時、若輩の研修医たちは
胸ポケットからピカチュウボールペンを取り出し、

↑画像はイメージです。
ほ~ら、Pカチュウだよ、
Pっカチュー♪(可愛い声で!)
こっち見てみて~
と裏声出しながら泣きそうなお子様の気をそらすのだった。
何度も大泣きの危機をPカチュウ様に救ってもらっていたものだ…。
ごくまれに、Pカチュウ様でも効果のないお子様がおられた。
そのさまは、まさに号泣。
泣きじゃくるお子様に上の先生もお手上げ。
泣いちゃうと、人間、眼圧が上がってしまうので病気によっては
よくないし、検査も正確な値がとれないので弱っちゃう…。
ところがこのお子様、診察が終わるとケロリ泣きやんだ。
あんだけ泣けば、ふつう泣き終えて涙かれても
しゃくりあげるのが止まらなくて、
ヒックヒック横隔膜がけいれんするものだけどな…
少なくとも私が号泣したらそうなるんですけど…。
帰ることになったとたんヒックヒックしないでぴたっと
泣くのを止められるということはもしかして…ウソ泣き????
器用なお子様である。
研修医はせいぜい点眼・採血など
一瞬で終わる検査くらいしか出来なかったが、
(もしくはそれすらも手こずり出来なかったが…)
お子様の検査を一手に引き受ける
小児眼科検査室
には、専門の検査師のおねえさんがいた。
子供扱いのプロである。
検査室にはそれこそPカチュウをはじめとして、
Kティ、Aトム、Mッキー&Mニーと
さまざまな子供界の人気者たちがズラリ並んでいた。
中でも、
異彩を放っていたのは大きなEルモぬいぐるみ。
こいつはゆさぶるとしゃべるのである。
イーッヒッヒッヒ~
ウーフッフッフ~
アーハッハッハ~
アハハハ、ハッハー!
ぐずっていたお子様たちも、この陽気な赤い野郎の
笑い声にはあぜん。
泣くことを忘れ、凄腕の検査師おねえさんにおとなしく
視力を測られたりしていくのであった。
しかし、小児検査室のまん前には大人兼用待合ベンチが…。
EルモはSサミストリートの人気者だから見ればそれとわかるが、
待合ベンチからは、小児検査室の中は見えない…。
大人な患者さんたちは、
外来にひびきわたるアメリカンな笑い声を
どう思ったのであろうか?
それがちょっとだけ気になる私であった。
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