東京もずいぶん寒くなった。
４時ちょうどの今
外は2℃らしい・・・。
部屋の中は16℃。
足元のストーブ以外は
まだ暖房をつけていない。
温風で部屋全体を暖めると
頭がぼーっとしてしまう。
それが嫌で
できる限り暖房はつけず
部屋着を重ねて
朝の寒い時間を過ごしている。
冬の朝の寒さから
連想することは
人によって様々だろう。
僕もこの寒さで
決まって想い出すことがある。
もしかしたら
僕はそれを再体感したくて
暖房をつけないでいる可能性だってある。
冬の寒い朝は僕に
ニューヨークにいた頃の
安ホテルの朝を連想させてくれる。
僕は29歳だった。
カウンセラーのライセンス取得のために
数ヶ月ニューヨークに滞在した。
最初はライセンスなんていう
色気はまったく無く
ヒプノの心理カウンセリングを
ひととおり学べたら
・・・くらいのつもりで行ったから
大体１ヶ月の滞在予定だった。
だから
軍資金だって
そんなに持ってはいなかった。
・・・いいや、
それだと格好良く聞こえてしまう。
正確に言うと
そもそも軍資金なんてものは
ほとんど無く
あり金全部かき集めて
やってきていた。
それでもひと月くらいなら
十分だった。
せっかくのニューヨークだし
ブロードウェイのど真ん中に滞在したから
ミュージカルや芝居も観たいし
少しは遊んでから帰国しよう
と目論んでいた。
ヒプノ心理カウンセリングを学ぶために
僕が師事したDr. ハーツ氏は
ビジネスウィーク誌に
連載を持っているくらい
著名なセラピストだった。
そのDr.ハーツ氏から
君はライセンスに挑戦すべきだ
なんて勧められて
僕も当然
その気になってしまったものだから
滞在を大幅に
延長しなくてはならなくなったのだ。
そのままの滞在では
軍資金は途中で底をついてしまう。
そこで僕は
とーっても安いホテルへと
引っ越ししたのだった。
その冬の東海岸は
記録的な寒波に襲われていた。
外は−12℃。
あちこちで溶けぬ雪が
カチコチの氷となり
ニューヨークの街全体を冷凍庫にしていた。
僕が引っ越したホテルは
夜１０時になると
ヒーターが止まってしまった。
なぜなら
とーっても安いから。
セントラルパークでは
ホームレスが夜の間に凍死していた。
僕はお風呂に湯を溜めて
ヘリに腰かけ脚を浸して暖を取り
次の日のセッションのための
予習準備をした。
僕の英語力が
全盛期ではなくなっていたのと
心理カウンセリング実習を
英語でやらなければならないから
予習復習は絶対欠かせなかった。
毛布にくるまって寝ていても
吐く息は白かった。
消えて無くなる
自分の吐く息を眺めながら
この体験をいつか誰かに話そう
なんてぼんやり考えていたのを
いま想い出した。
とーっても安いホテルには
朝食もついていなかったから
僕は隣のベーグル屋に
毎朝夜明けとともに降りていった。
いつの間にか
僕はそのベーグル屋の開店を
手伝うようになった。
働いていた気のいいメキシカンの男は
脚が悪いらしく
びっこを引きながら
重い荷物を店に運んでいた。
ある朝、
まだ開いていない店の前で
僕が待っているとき
僕もトラックから荷物を運んだ。
本当は
早くコーヒーとベーグルを買って
部屋に戻りたかったからだ。
その日から
僕は毎朝開店少し前に降りて行き
一緒に荷物を運んで
かわりにコーヒーとベーグルを
もらうようになった。
ランチ用に
サーモンサンドのベーグルを
作ってくれる日もあった。
冬の寒い朝は
僕にそんなニューヨークの朝を
想い出させてくれる。
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