何度も書いていることだけど、ぼくの朝は早い。
だいたい5時前後。そこから9時くらいまでがもっとも濃厚な創作時間となる。それはカリフォルニアに住んでいたころの、あの澄んだ空気感と近いものを東京 の早朝に感じ取れるからだと思っていたら、もうひとつ原因を見つけた。29歳のとき、ぼくはニューヨークでセラピストのプロライセンスを取った。そのとき もぼくの朝はとても早かったことを思い出したんだ。ブロードウェイの安ホテルで、毎朝5時に起きていた。すぐにホテルの隣にあるパン屋に降りていく。そこ のパン屋は7時に開店。そのために4時すぎから職人がパンを作り始める。馴染みとなったぼくは、店のガラス窓を叩く。するとプロレスラーみたいな厳ついパ ン職人が出てきて、ぼくにベーグルを渡してくれる。シナモンとセサミ。厚めに切ったクリームチーズをはさんで。ホテルに戻ると、ロビーには、そろそろシフ ト交替組がその準備で集まってきている。客からの要求がもっとも少なくなるこの時間に、彼らはコーヒーを飲みながら引き継ぎをするのだ。ここでも馴染みと なったぼくは、その引き継ぎ用のコーヒーを一杯分けてもらって、部屋へ上がる。ベーグル2個とコーヒーを飲みながらぼくは、その日受ける予定のセラピスト のセッションの予習をする。その年のニューヨークは、記録的に寒い冬だった。連日、セントラルパークではホームレスが凍死していた。安ホテルのぼくの部屋 の暖房は時々動かなくなる。隣の部屋のカップルは、夜遅くまでセックスに励んでいてうるさい。
最悪の条件のニューヨーク。でも、そのときのぼくは、なんだかすごく充実していた。未来なんてまるで見えなかったぼく。でも、何か特別な空気の中に自分がいるのが分かっていた。その感覚。それをぼくは肌寒い朝の空気の中で、今も毎日探しているのかもしれない。