【2025年本日読了した本 その1】
2023年に出版された濱松哲朗氏の第一歌集
2014年から2021年までに制作された歌から420首を選び再構成
静謐な覚悟が、冷たく熱く
トーンを抑えた文語体で音楽のように奏でられた歌集
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ぶれぶれの写真に残るよろこびが削除の指を遠ざけてをり
余白てふ存在に逢うよろこびをつかの間真夜のましろなる月
耳で聴く風景ならば雪原は最弱音のシンバルだらう
ふたり分悲しんでゐる気でゐたが私がふえただけだつた
かなしみが指にからまる感触のこんなに強く握りかへして
わたしにも凍える声のあることの笑えば笑ふほどにくるしい
マフラーを道の途中に外すときわれにひかりは春をともなふ
みづうみに枯葦の葉の遊ぶ頃今年の雪のふりやまざらむ
泡立つた心が凪いでいくやうに今日だけ提示部をくりかへす
ちらかしてゐたのは期待 隣り合う音から音へ灯りをたどる
こころは声にこゑは夜霧にながれつつなぐさめてくれなくていいから
生きていて欲しい人からゐなくなり桜は夜にふくらみを増す
指づかひ こころがこゑになるときのほんのわづかな息のためらひ
ランタンに灯りを点しつつひかりとはおのれの影の伸びゆく範囲
指揮棒に射抜かれし眼の記述あり腕まくりして書庫に潜れば
八月の打弦わづかにくぐもればアップライトに交差する雨
哀しみは少し遅れてやつてくる旋律はやがてヴィオラに降りて
そちらではよろしくやつてゐるさうで実は落とし穴だつたらしいが
海を見に行かうと君に伝へたらもう満たされてしまふ気がして
遠近の窓に溶け合ふ明け方をひとふで書きの鴉つらぬく
#翅ある人の音楽 #濱松哲朗