前回記事で書いたように僕はワクチンを打っていない。こう書くと、お前は反ワクチン=トンデモ陰謀論者なのか、頭イッちゃってる痛い奴だな、みたいに類型化してマウントしてくる奴がネットの中では必ず現れてくるもんだ。どうやら単純な頭に考えられるのは単純なことだけらしい。しかしテスト氏の言葉を今回も借りると「現実はそんなに単純ではない」のである。

 

 

ワクチンを打たなかった人の中にも、陰謀論に近い反ワクチンもいれば、安全性に対する懸念や、コロナの死亡率(実際統計を見ればインフルエンザと同程度かそれ以下に低かった)を見て、打つ必要性を感じない、ワクチン慎重派や懐疑派、いろんな立場から、個々の判断で打たないことを選択したわけだ。

 

 

一方のワクチンを打った人の中にも立場はそれぞれで、ワクチン推進に積極的に加担し周りの人に圧をかけて来る人もいれば、あまり気乗りはしないが仕事上必要にかられて打った人(医療・福祉関係者、小売、接客業など不特定多数の人と接する仕事など)もいただろう。

職場等で僕がワクチンを打っていないと知ってもムキになって勧めてくる人は少なかったし、別にワクチン接種者=洗脳された人でもないんだよな。ワクチンを打つ打たないは個人の自由が本来の趣旨なのだし、個人の意志を尊重することは守られるべきなのだ。もっとも職場で何かしらの圧をかけてくる人は数人いた。皆60代以上だった。年齢からくる不安もあるだろうが、テレビのプロパガンダが効きやすい世代でもあるだろう。

 

 

別にコロナやワクチンについてよく知らないし自分で調べようとも思わないけど、テレビがやたらと危険を訴えコロナ怖い怖いと繰り返しているからなんとなく怖いし、周りの人は皆ワクチン予約して打っているから、自分だけ打たないと仲間外れにされそうなのが怖い。皆で打てば怖くないよね、どうせタダだし。

特に考えもなく雰囲気に流されたタイプ。僕はこれがもっとも多いんじゃないかと思う。

 

 

多数派を扇動し動員する方法は歴史的に見て確立されていて何度となく繰り返されてきたのだけれども、まずは恐怖や不安を煽るのである。ネガティブな感情はストレスになるので人はそのはけ口を求める。

一つは怒りに転化し、非国民探しや犯人探し、想像上の敵を叩くことで発散する。パチンコ屋、夜の街関連、飲食業、若者、ワクチン非接種者。科学的な証拠もないのに多くのものがやり玉に上げられ叩かれる対象となった。政治がそれを先導した。法によって裁くよりも社会的な圧や民衆による私刑に委ねた。全ては非常時だからという論理で許され、法治国家としての矜持をかなぐり捨てた。

もう一つがワクチンである。あれだけ人が殺到し予約が取りづらい状況になったのは、社会的なストレスによるものと説明するのが正しいだろう。多数派を動員するために政治は人々の不安や恐怖、怒りなどネガティブな感情を煽る。コロナの次は戦争の危機である。人間の心の働きやメカニズムに無知で、ネガティブな感情に無防備な多数派はまたホイホイお膳立てされた筋書きに乗るのだろう。キリもなく繰り返される茶番の舞台裏を知ろうともしないから、歴史は繰り返されるのである。

 

 

「要するに如何なる時代にもこの連中には内容がなく空虚な自我があるだけだ。流行次第で右から左へどうにでもなり、通俗小説の表現などからお手本を学んで時代の表現だと思い込んでいる。事実時代というものはただそれだけの浅薄愚劣なものであり、日本二千年の歴史を覆すこの戦争と敗北が果たして人間の真実に何の関係があったであろうか。最も内省の希薄な遺志と衆愚の妄動だけによって一国の運命が動いている」

 

 

これは坂口安吾の「白痴」の一節だが、「最も内省の希薄な意志と衆愚の盲動」によって社会全体が振り回され、先鋭化し非国民探しを始め、多数派の暴走を誰も止めることが出来なかったのは、日本が戦争に至る流れもコロナ騒ぎも同じであった。敗戦後社会の表層は変わったけれども、日本人の民族性や人間性そのものは何も変わっていないし、日本人の大半は忘れっぽく内省心も歴史から学ぶ気持ちもないから、バカな過ちをキリもなく繰り返す。

 

 

物事に対して肯定か否定か、二つの選択肢しかないと思い込むのはなんなのだろうか。

やみくもなワクチン推進派も陰謀論の反ワクチンも僕は同意できない。お互い反目しあい攻撃しあっているが、根底にある不安や恐怖に突き動かされているのは同じで、どちらも根拠もなく科学的に証明されてもいない噂話の類を信じて右往左往しているのは同じである。ようは同類なのだ。

分からないことは分からないと認識し、一旦判断を保留する。なぜこれが出来ないのだろう。よほど状況が切迫していればそんな余裕もないので仕方がないのかもしれないが、コロナはそんな危機ではなかった。ただ政治やマスコミが煽った不安に多数派が踊らされていただけだ。くだらないの一言である。