1800年前(邪馬台国時代)の貴重な歴史を語る城野遺跡は、長年にわたる専門家や市民の願いは叶わず、ほぼ全域が破壊され、かろうじて現地が保存された九州最大規模の方形周溝墓も真っ平らで無機質で、弥生人が眺めていた足立山もほとんど見えない「城野遺跡公園」として整備されました。

 

その後、私たちは、「城野遺跡の会」に名称を変え、「城野遺跡の現地保存をすすめる会」「城野遺跡公園を実現する会」での活動や経験をふまえ、地域の歴史や文化を大切にするまちづくりに寄与しようと引き続き活動を続けています。

 

現在、北九州市がすすめている埋蔵文化財センターの八幡市民会館への移転事業について、無責任で杜撰な文化財保護行政を象徴する事業として反対し、白紙撤回も含めて見直しを求め続けています。

 

2018年10月の移転事業の報道以来、出前講演や市民の集いなどに取り組みながら、市長や市議会に要望書や陳情書を何度も提出していますが、市は現在の埋蔵文化財センターが果たしている役割や八幡市民会館に移転後の埋蔵文化財センターとの比較をまともに検討することなく、八幡市民会館の利活用の名のもと埋蔵文化財センターの解体と跡地売却へと突き進んでいます。

 

そこで、埋蔵文化財センターのあり方について考えようと、11月11日にバスツアー「北九州市と比べてみよう!福岡市埋蔵文化財センター、板付遺跡、金隈遺跡」を開催しました!

 

その目的は、「北九州市埋蔵文化財センターが他都市のセンターに比べ、当局からいかに粗雑な扱いと過小評価を受けているのか、また本来市民のためにそこにあるべき施設を全く機能が異なる施設へ移転させようとする当局の姿勢を改めて問い直すために、同じ政令指定都市である「福岡市埋蔵文化財センター」の施設をすみずみまで見学し、併せて近隣の有名な国史跡「板付遺跡」「金隈遺跡」の整備のあり方を城野遺跡のそれと比較する」ことでした。

 

40名定員の貸し切りバスはほぼ満席で、行きのバス内で学芸員の佐藤浩司氏からそれぞれの訪問先の大まかな説明を聞いたうえで、福岡市埋蔵文化財センター、板付遺跡、金隈遺跡を訪問し、それぞれ所長さんや館長さん、ボランティアの方から詳しい説明を受けながら見学しました。

 

企画の「案内チラシ」【資料1】と当日配布された「バスツアー訪問先/見どころガイド」【資料2】、福岡市埋蔵文化財センター、板付遺跡、金隈遺跡の見学の様子です【写真1~7】。なお、最後に各施設の紹介のページを添付していますので、併せてご覧ください。

 

【資料1】バスツアーの案内チラシ

 

 

【資料2】バスツアー見どころガイド

学芸員の佐藤浩司さんがバスの中で説明された時の資料です。板付遺跡、金隈遺跡は日本を代表する弥生時代の遺跡で、すぐ身近に古代人と触れ合う場所があるなんて、福岡市民がうらやましく思いました。福岡市埋蔵文化財センターは、この中の表に示すように、ほぼ同時期にできた北九州市の埋蔵文化財センターとはまさに雲泥の差。施設の増改築に加え、数回にわたる収蔵庫の増設、将来を見据えた敷地の取得など、あまりの違いに参加者は目が点になっていました。

 

 

【写真1】福岡市埋蔵文化財センター

所長の説明を熱心に聞く参加者。埋蔵文化財とはなにか、どのようにして見つかるのか、発掘調査の進め方など、わかりやすく解説していただきました。

 

【写真2】福岡市埋蔵文化財センター

収蔵庫の中は土器や石器を入れたコンテナがぎっしり。この収蔵庫の奥はさらにたくさんの遺物が収納できるように、5メートルほどもあるアングル棚が設置され、リフトを使って遺物を出し入れするそうです。

 

【写真3】福岡市埋蔵文化財センター

収蔵庫のアングル棚には復元された甕棺が私たちをお出迎え。このような大きな弥生時代の甕棺は、残念ながら北九州市地域にはなく、通路はまさに甕棺ロードになっていました。このなかに葬られた人骨もたくさん残っていたそうです。

 

【写真4】板付遺跡

福岡市立板付遺跡弥生館で館長のわかりやすい話を熱心に聞く参加者。参加者の質問にも丁寧に答えてくれて館長の板付遺跡への熱い思いが伝わってきました。

 

【写真5】板付遺跡

広大な遺構が保存され、日本で最も早く稲作農耕が始まった弥生時代を実感できる史跡公園として整備されています。現在も発掘調査が進められているそうです。

 

【写真6、7】金隈遺跡

金隈遺跡甕棺展示館で説明コーナーや発見されたままの甕棺墓群に見入る参加者。

 

 

 

ところで、今はいろんな団体や施設がインターネットで情報発信し、活動や魅力をアピールしています。アクセスできればすぐに調べることができとても便利な時代になりましたね。

 

そこで、インターネットで「福岡市埋蔵文化財センター」を検索するとホームページにすぐにアクセスでき、そこには「見学のしおり」【資料3】が公開されていました。埋蔵文化財センターの役割や見どころがわかりやすく、福岡市の貴重な埋蔵文化財の保存、研究、活用のための大切な施設であることが伝わってきます。

 

【資料3】福岡市埋蔵文化財センターのホームページに公開されていたリーフレット

 

 

 

一方、「北九州市埋蔵文化財センター」で検索すると「埋蔵文化財調査室トップページ/北九州市芸術文化振興財団」のページが出てきます。つまり、「北九州市芸術文化振興財団」のホームページの中に開設されており、福岡市のように独立したホームページがないのに驚きました。福岡市の「見学のしおり」のようなリーフレットがないか探したところ、案内チラシが公開されていました【資料4】。埋蔵文化財センターの役割や魅力を積極的にアピールしているとは思えず、北九州市の埋蔵文化財センターが過小評価されていることが、こんなところでもわかります。

 

【資料4】北九州市埋蔵文化財センターの案内チラシ

 

今回のバスツアーは、大型バスを借り切って参加者を募集したものの、初めはなかなか集まりませんでした。しかし、北九州市の文化財行政のあり方を外から見てみよう、との趣旨で再度皆さんに声掛けしたところ、日増しに参加希望の方々の申し込みが相次ぎました。

 

天気にも恵まれ、古代人と同じ遺跡に立ち、同じ大地を歩いているんだという実感は、城野遺跡や重留遺跡のようにアスファルトやウレタン樹脂で覆われた遺跡では決して味わうことのできない歴史の重みを心に刻むことだとわかりました。また、このようなツアーを企画して、私たちのふるさと北九州市の歴史と文化を考える楽しい時間を皆さんと共有したいと思います。

 

最後に、参加者からのアンケートに寄せられた意見や感想です。北九州市の埋蔵文化財の保存や活用のあり方との違いに、参加者の驚きと憤りが伝わってきます。

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◆普段自分ではなかなか行けないところを回って、ていねいな解説付きで見学できました。各施設、遺跡とも北九州市にはない扱いで、北九州市民として残念でなりません。古代の人の生活をあれこれ想像できる企画をお願いします。(門司区 80代男性)

 

◆遺跡公園等、遺跡の現地を大切に保存し、活用されることがいかに学びの場となり、まちの魅力発信、誇りとなるかを実感しました。現地の方のていねいな説明があり、とても分かりやすかったです。福岡市埋文センターは、広さも施設も設備も職員の数もきちんとされており、埋蔵文化財に責任を持って取り組んでいて、北九州市のずさんさを改めて実感しました。北九州市埋文センターを移転しようとしている八幡市民会館の見学と説明をしてほしいと思いました。(北九州市外 60代女性)

 

◆北九州市と福岡市のあまりの違いに悲しくなりました。このプチツアー(全然プチじゃないですが)、とても楽しかったです。埋文センターのどうやって遺跡になるのか・・・のところのパネルは分かりやすく、子どもたちにも良いなと思いました。センターの役割や仕事を教えてもらい勉強になりました。学校への出前講演を、北九州市でも是非してほしいと思います。子どもたちが興味関心を持ってもらえたら、北九州市ももっと良くなるのかなと思います。(小倉北区 50代女性)

 

◆それぞれの施設でものすごく丁寧に解説していただきとても楽しく学ぶことができました。本当に感謝です。大変なボリュームで、これで「プチ」なのかと驚きました。(小倉北区 40代男性)

 

◆今まで知らなかったことばかりで、福岡県民としてとても勉強になりました。福岡市と北九州市の文化財に対する違いに驚きました。(市の持っている予算も違うと思いますが)楽しかったです。(小倉南区 60代女性)

 

◆大量の甕棺に驚いた。来て良かったです。(小倉北区 80代男性)

 

◆遺跡や埋蔵物の保存のあり方を知る機会を、どうもありがとうございました。お金のかかる事業ですが、未来につながる貴重な働きだと思います。その事業が円滑に進んでいる三つ施設から感じることができました。みなさんの質問がとても鋭く、保存のポイントが私にも少しわかりました。(小倉南区 60代女性)

 

◆埋蔵文化財センターのバックヤードを見学できたのは良かった。また、社会見学などにも開放しているのは教育施設として素晴らしいなと思いました。解説付きなので、個人で見学するより勉強になりました。(小倉南区 70代男性)

 

◆また企画してください。とても楽しかった。それにしても北九の対応について腹が立つ。(小倉北区 70代女性)

 

◆教育的な視点で遺跡が発掘調査され、生涯学習にもなり、子どもたちの学びの場になっている点、市民の憩いの場がある点でも素晴らしいと思いました。北九州の遺跡など誇れるものがあるのに活用せず、発信できない点、何とかしたいなと思います。文化財を生かせない行政は、世界から笑われます。他都市の状況を見ることができ大変参考になりました。(小倉南区 70代女性)

 

◆板付遺跡の弥生館をはじめ、広々とした弥生ムラ、6mもある環濠からその時代に思いをはせることができる説明や現場でした。縄文晩期と弥生早期が入り混じって、日本でも唯一の場所がここ板付であることにすごいなと思うし、古代に興味を持つ内容だった。埋蔵文化財センタ―の方の知識、技術、考古学への情熱がさすがだなーと強く思った。行ってみて聴いて、感じるツアーでした。また行ってみたい。(小倉南区 60代女性)

 

◆北九州市と福岡市の文化財に対しての考え方、位置づけの違いがよくわかりました。福岡には後世に残すために増築、改修、保存、化学処理を行うなど、しっかり財政的にも、文化行政が位置づけ、大切にされていました。残念ながら今の北九州にはありません。八幡市民会館のホールが収蔵庫になることをかんがえるだけでゾッとします。今日は大変勉強になりました。(門司区 70代女性)

 

◆北九州との違いが鮮明になり、悲しくなりました。学芸員の体制、予算の確保、課題がはっきりしました。今後も佐藤さんの知見を生かしたツアーを企画してほしいです。(小倉南区 60代女性)

 

◆福岡市埋文センターのバックヤードがもう少し見ることができればよかった。榎本所長によれば、遺物収納量が14万箱ということだが、北九州も12万箱くらいあり、あまり変わらないのはびっくりした。それに対して、収蔵庫の広さ、立派さは、比べるべくもなく、北九州市の文化財の取り扱いに大切に保管するという意識がないと感じた。(小倉南区 60代男性)

 

◆五感をフル稼働し、楽しみました。板付遺跡、福岡市埋蔵文化センター、金隈遺跡、それぞれで分かりやすい解説の中に大切な遺跡を地域に、世界に、後世にきちんと伝えていきたいという行政の熱意と誠意を感じた。プチツアーではなく本格的ツアーでした。(小倉南区 60代女性)

 

◆初めて埋蔵文化財センターや遺跡について、話を聞くことができ、感動しました。福岡市と北九州市の違いを知りたいです。北九州市にも埋蔵物はあるはずですよね。(小倉南区 60代)

 

◆参加してよかった。あまりにも知らないことばかりの自分を発見しました。これを機に北九州のことを知るのが一番の仕事です。(八幡東区 80代女性)

◆規模の大きさに圧倒されて、少し疲れました。人間はたゆまず生きるための努力をする。その足跡を保存されていることに感謝。歴史を知ることが次の社会へとつながることが実感できました。(八幡東区 80代女性)

 

◆遺跡の保存と「埋文センタ―」のあり方について福岡市と北九州市の違いを具体的にこの目で見ることができて良かった。まず、学芸員の配置数、同時期の建物の改修、更新にいかに予算を入れるか、両者の違いは 市民の力の違いとも言える。"文化を大切に”とは?改めて考えさせられた。(小倉南区 70代女性)

 

◆同じ県内にあって初めての見学でした。もっと早く来ていても良かったのに(吉野ヶ里には2度行っていますが)。北九州市の文化的弱点と克服について論じる機会があってもよいのでは。(八幡西区 70代男性)

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【参考資料】

●福岡市埋蔵文化財センターのホームページ

福岡市埋蔵文化財センター (fukuoka.lg.jp)

 

●北九州市埋蔵文化財調査室のページ

 ※「北九州市埋蔵文化財センター」のページは探せませんでした

発掘情報|北九州市芸術文化振興財団 (kicpac.org)

 

●板付遺跡関連のページ

板付遺跡 | 文化財情報検索 | 福岡市の文化財 (fukuoka.lg.jp)

 

●金隈遺跡関連のページ

金隈遺跡 | 文化財情報検索 | 福岡市の文化財 (fukuoka.lg.jp)