静かな春を迎えました。


それもそのはず。

一切声を出せない期間を過ごしておりました。


そんなこと生まれて初めてのことです。笑


実は、声帯に大きなポリープができておりました。先日、切除手術を行い、術後は沈黙状態。現在、徐々に声を出し始めております。


おかげさまで、経過は良好です。





時折、北海道の母と、葉書での俳句のやりとりをしております。


メールもLINEもしない母との文字でのコミュニケーションは今も手紙です。


母のようにうまく詠むことはできませんが、私も拙いなりに、季節ごとに句を詠んでいます。


今年の春は今年 “  ならでは! ” の句を詠むことができました。



沈黙の

花見もおつな

術後かな



見事な桜の花を眺め、わ~きれ~!と声に出したい気持ちを抑えました。


胸の中に、心の中に新しい音が聞こえてくるようでした。それはそれで、おつな体験だったのです。


おつ

お疲れ様の「おつ」じゃありませんよ


おつ

風情があって味わい深い様子を表す言葉。若い方にもぜひ多用していただきたい大好きな日本語です。




さて、ポリープ切除までの流れ、かなりの長文になりますが、この機会にまとめておくことにします。


今日までこの事実を公開できずにいたのは、術後の「経過良好」を待ってのことでした。


全身麻酔初体験の私にとって、今回の手術はそれはそれは緊張するものでした。そして、体内にメスを入れ、果たして声は復活するものなのか。未知の世界でした。


まだまだリハビリ中ではございますが、発覚から今日までの諸々をお伝えさえていただきます。


かなりの長文とはなりますが、寛大な方がいらっしゃいましたらぜひお付き合い願います。同じ症状で悩んでいる方や、声を使ったお仕事をされている方の参考になれば幸いです。




兆候


兆候は2年程前から感じておりました。


明瞭に声が出ない感じ

特に高い声に不安定さを感じはじめました。


初めの頃は

加齢によるもの?

鍛錬不足

コロナ渦で舞台の本数が減ったことにより衰えた?毎日もっと声を出していないとダメなのか!?

もっと鍛えなきゃ!と、自己流のケアと鍛錬に努めるも改善されず




症状の深刻化


やがて、裏声が全く出なくなってゆきました


そして、昨年末からは日常会話もかすれてしまう程に


あまりのハードスケジュールで睡眠もまともにとれない日々でした。それも原因かと思い、睡眠時間の確保にも努め、加湿ケア諸々をするも日に日に症状は良くない方向へ


日常的に利用していた耳鼻咽喉科にて一般的な薬は処方していただいていたものの、これまでの不調とは何かが違うと焦りはじめました。




専門病院へ/声帯ポリープ発覚


会う人、会う人に、声どうしたの?と言われる日々


専門病院での本格的な検査が必要!ということになり、声専門のお医者様にお世話になりました。


すると、なんということでしょう

大きな大きなポリープちゃんが


「相当な期間、温存しましたね。コレでよく声が出せていましたね。かなりのビックサイズです。」と先生。


声が出ない原因はこのポリープちゃんでした。


声帯は2つのヒダが触れ合い振動することで声(音)が生まれます。


ポリープがあることにより、声帯が閉じられないうまく振動できない息が漏れるという状況だったわけです。




手術計画/直近の本番をどう乗り越えるか


すぐに手術が必要なレベルとのこと。


しかし、切除手術を行うとしばらくの沈黙期間が必要となります。


間近に控えていたのは


東京文化会館での新制作

「ピノッキオ」の長期稽古、

そして本番2ステージ。


奈良県大和高田市さざんかホールでの

「ピーターパン」の本番とワークショップ2


これらの公演を中止にはしたくありません

全く声が出ないというわけでもありません

ということで


手術は奈良県での公演以降にという計画になりました。


2月末までの公演は全てポリープを携えたまま挑む運びとなったわけです。




ポリープと共に、いざ本番


ここからが日々、極限状態に気をつかう日々でした


稽古場での発声や打ち合わせ等での会話を最小限にさせていただいたため、関係者の皆々様には大変お手数をおかけしました。皆さんの温かさに支えられました。


このポリープがある状態でもなんとか声が出るように、と、先生もあらゆる手を尽くしてくださいました。


迎えた本番、コレが不思議なことに声が出るのです。アドレナリンは声帯を一時的に引き締めるようですね。


声帯に垂らす「アドレナリン液」を処方していただきましたが、その液体の有効時間は約40分。公演途中で処置の追加をするとなると舞台が途切れてしまいます。


「ピノッキオ」は休憩なしの出ずっぱり70分。


「ピーターパン」も休憩なしの80分という作品。「ピーターパン」に至っては完全なるひとり舞台のため、台詞と歌がノンストップで続きます。


しかしながら

本番というものには魔法が存在するわけで、カラダから自力アドレナリンが放出されます。おかげさまで本番は最初から最後までこれまで通りの声を出すことができました。


ですが、実はギリッギリ!でした。


ポリープがあるなりに、なんとか声帯が振動し鳴る部分を見つけていました。そのわずかな部分に意識を集中させ、うまく声を響かせるように心がけました。


お客様の眼差し、期待、熱気は、新たな集中力も引き出してくださいます。


病院の先生、関係者の皆様のご協力、そしてお客様の眼差しに支えていただき、2月の公演は全て無事に終えることがでしました。




手術準備


奈良県での「ピーターパン」公演後、「曾根崎心中」の取材旅で大阪と兵庫を巡り、帰京後、手術に向けての準備が始まりました。


声帯を手術に最適な状態にすべくお酒を控え、強い発声を控え備えます。

プレゼントや差し入れでいただいた美味しそうなお酒も見るだけで我慢!


手術前日は深夜から食事NG。翌朝は指定の時間から水も飲めなくなります。汗をかいて脱水症状を起こすなどとならないように細心の注意を払いました。




前編はここまで


【後編】は手術当日からリハビリ…現在に至るまでの近況をお届けいたします。