ちょいと前、先月末のEテレ『古典芸能への招待』で取り上げられた『仮名手本忠臣蔵』の大序を見ていて、「そうだったなあ、赤穂浪士の話は室町時代、足利の世の話に移し替えられていたのだっけ」なんつうことをうすぼんやりと思い返しておったりしたところで、こんな一冊を手にとったのでありますよ。題して『足利の血脈』と。

 

本書は、戦国を語る上で欠かせない「足利氏」をテーマに、7名の歴史時代作家が書き下ろした短篇小説を収録したアンソロジー。…これまで戦国史を語る上で、メインで書かれることがなかった「足利氏」を軸に、この時代の画期となる出来事を時系列で描いていくことによって、“もう一つの戦国史”が浮かび上がる。

版元・PHP研究所HPにはかような本書紹介がありまして、7人の書き手によってともすると室町時代を通観するような仕上がりでもあるか?と思えば、実は文字通りの「もう一つの戦国史」であったと。なんとなれば、話の中心は関東、要するに鎌倉公方、古河公方(加えて堀越公方、小弓公方も)の物語だったのでして。

 

どうやらそもそもがプロジェクトものとして企画された一冊のようでして、企画協力に挙がる栃木県さくら市は最終的に小弓公方系の足利家が江戸時代を通じて領した喜連川藩の所在地であり、巻末にはご丁寧にも「喜連川足利氏を訪ねて-栃木県さくら市歴史散歩」なる一文まで添えられているという。町おこし本といってもいいのかもです。

 

そんな経緯からは当然なのか、歴代の関東公方が大活躍…かと思えば、これまでにも数多の本を読んできましたように、室町期の関東情勢は複雑怪奇なものですので、そこに一本筋を通す役割は喜連川の地を本貫とするさくら一族なる忍びの衆になっている。ひたすらに古河公方に寄り添う影の存在として。

 

ですが、栃木県に忍者の里があったのであるか?という点では「栃木県 忍者」で検索しても、日光江戸村のアトラクションしか出てこないので、おそらくは本書用に作られた存在なのかもですね。ですので、そうした影の存在が歴史の所々に顔を覗かせて引き起こされる事々は、結果として歴史の一面を語るようでいて、思い切りのフィクションなのでしょう。そんな話だったら面白いてなところで作った筋立てで。

 

ですので足利義輝弑逆やら織田信長謀殺やらになってきますと、「よくまあ、作ったな」という以上に「やりすぎじゃね?」感もあるところながら、始まりの古河公方誕生から最後の喜連川藩誕生まで時系列でて歴史の流れを押さえていく7編、それぞれに面白く読ませてもらった次第ではありました。

 

ただ、残念ながら本書を読んで「どれどれ、栃木県さくら市の歴史探訪に行ってみようか」とまでなるのはよほどの好事家か日本史に深入りしている人ではなかろうかと。さくら市の町おこし的な根っこの趣旨に適うかどうかは微妙な気がしたものではありますよ。