さまざまなアンサンブルの妙を楽しめるミューザ川崎のランチタイムコンサート。年度が替わって新しく、2025年度シーズンがスタートとなったものですから、そそくさと出かけていったのですな。今回企画もまた大層意表を突いたものでありましたよ。

 

 

フライヤーに「前代未聞のチューバ四重奏」とありますが、空前絶後であるかは知る由もないものの、確かに個人的には前代未聞であるような。2年ほど前にチューバ・ソロのリサイタルに出かけた際にも「珍しい」と言いましたですが、チューバばかり4本集まるというのはレアものでしょうなあ。

 

さりながら、このレアと思ったチューバ四重奏、ホール主催の奇を衒ったアンサンブルの要請に四人のチューバ奏者が集まったのであるかとも思えば、実のところ「TUBASSADORS(チューバサダーズ)」というユニット名で活動する常設団体であるようで…というからには、個人的には初めて知った団体ながら、ステージから演奏者が「チューバサダーズを知って来てくれた方は?」と問いかけますと結構な拍手が起こっておりましたよ。Youtube効果のようですなあ。

 

ともあれ、レアな編成であることには間違いないところなので、予めこの編成用に書かれた楽曲がそうあるでなし、今回演奏された4曲はアレンジもの3曲と新たに委嘱された新作1曲という構成でありました。

 

まず最初の「シング・シング・シング」は誰もが聞き覚えのあるであろうスウィング・ジャズの名曲ですけれど、いやいやなかなかに低音域に偏ったところで頑張っておりました。ただ、脳裡に思い浮かんでくるのは象さんたちのダンス姿。決してのっそりではなくして、ディズニーの『ファンタジア』の中でも描かれそうな、大きな象がアクロバティックな動きを展開するような。

 

こう言いますといささか揶揄する感ありと受け止められるかもしれませんが、そういう意図ではありませんで、やっぱり低域の音色が醸すイメージというのはどうしても重厚長大方向に触れがちなのだろうということでして、それの良し悪しではありませんですよ。

 

えてしてアンサンブルは高音域から低音域までをカバーする組み合わせでやる方が音楽を作りやすいであろうところへ、わざわざこの編成で臨むのはいわば挑戦でもあるわけですね。ですから、その楽器でイメージする従来色を払拭するような音楽を聴かせたいといった心意気があるのでしょう。その心意気たるや良し!です。

 

ですが、チューバ従来のイメージというのも実は楽器の個性として大事にしていいことなのだろうなとは思ったりもしたもので、一転して2曲目のオリジナルは流れるメロディーを配した穏やかな曲ながら、旋律は「ユーフォニアムにもより馴染むのでは…」とも。

 

ここまでの2曲で抱いたそれぞれの印象は、続くガーシュインの『ラプソディー・イン・ブルー』(もちろん全編、チューバ四重奏版)や吹奏楽の定番曲『宝島』でも同様に思えたものです。出演者メッセージに「チューバの持つ可能性を感じていただければ幸いです」とある楽器の可能性は確かに示された一方で、果敢に限界に挑むこととは別に、チューバの特性そのものを活かす方向で挑戦を続けていく方向もあるのではと。

 

最後の『宝島』の演奏に先立って、「最後の曲はアンコールだと思って、ノリノリでお送りします」的な言葉が聴かれたましたけれど、ノリノリ感は音楽そのものによって生ずるとはいえ、ライブの場合にはプレーヤーたちが演奏している姿からその感覚が伝わってこそなおのことと思うわけですが、如何せん、大きな楽器を抱え込んでいる分、せいぜい体が少々左右に触れるくらいの感じ。なんだか「無理しなくていいのに…」と思えたりも。

 

と、結局のところ「揶揄しているわけでなない」といいつつもそれっぽい語り口になっているかもですが、先にも触れましたように「心意気たるや良し!」とも思っていますので、目指す方向性として個人的に思うところとのすれ違いなんでしょうね、きっと。このアンサンブルが現在のメンバーでチューバ四重奏という形で活動するようになって2年余りらしいとなれば、今後どうなっていくのか、楽しみでもありますですよ。