渋谷まで國學院大學博物館を覗きに行きましたので、またまたそのついでに立ち寄ったところのお話を。國學院の博物館には何度も立ち寄っていながら、実はその至って近くにあることさえ知らなかったという実践女子大学。そこに(創設者の雅号を冠した)香雪記念資料館という施設があるということで、立ち寄ってみた次第です。
比較的奥まって閑静なところにある國學院大學からは、ほんの数分歩いただけで交通量のとても多い六本木通りに行き当たりますが、この通りに面して実践女子大学はありました。都心部の大学らしく高層ビルの校舎が聳え立っていましたが、それを写真に収めるのにうろちょろすると、女子大という場所が場所だけに怪しまれそうでもあって控えておきましたですよ(笑)。
ビルの入り口脇にある守衛室に「資料館見学」を申し出て、氏名・電話番号・入館時刻を備え付けの表に記入すると、晴れて「入ってよし!」となるのでして、1階ロビーの奥の方に設けられているという資料館に向けて一目散に向かった次第です。
企画展示室と下田歌子記念室という二つのスペースではそれぞれに展示が行われておりますが、創設者(展示では「学祖」と)を記念する展示室には校史を紹介する年表が掲げられておりまして、どうやら学祖先生は「華族女学校(後の学習院女学部)では、学監兼教授を務め」(同大HP)たりしたことなどから皇室との所縁深く、渋谷に近い校地は常陸宮御用邸のある、かつての常磐松御料地の一部というのも、皇室との関わりの故のようで。
とまあ、そんなことはともかくも、現在開催中の企画展は「中国美術に親しむ-原寸大複製画と館蔵品展-」というもの。複製画メインとはいえ、中国美術ビギナーには十分な内容ではなかろうかと。なんだか不思議と、燕趙園やら中公新書の『隋』やら、はたまた『漢字のはじまり』展@書道博物館やら直前に見てきた元寇展@國學院大學博物館やら中国づいているときには続くものですなあ…。
ともあれ、「日本美術と深い関わりのある中国絵画を学ぶための一助として活用していただければ幸いです」という開催趣旨(同館HP)だけに、元代以降、文人画の流れにおける時代時代の特徴を解説してくれておりましたですよ。
そもそもとしてあるのは、元王朝が北方のモンゴルから南へ勢力を拡張して広く中国大陸を支配したことのようで。元では科挙を廃止(のち部分的に復活)するなど含めて、漢民族の伝統文化を尊重しなかったことから、(元以前に金の成立後)南宋へと逃れていた江南文人(儒者)は立場として最下層に分類されていたのであると。友人知人やパトロンの庇護に預かる中で、手すさびに?手がけていた文人画の飛躍が生じたとは何が幸いするか分からないところで…。
飛躍の中身が「宋代に完成した写実的表現を排して、画家の精神や思いを投影する絵画芸術が追求された」ということになりますと、日陰者扱いをされつつ、沈思黙考の日々を送っていたのであろうかという想像ができてしまうわけで、それが画中に表現されるようになったとでも言いますか。それが「後の時代の中国絵画の流れを決定づける古典様式となった」とは、ひたすらに写実を極めるだけない表現へありようへの目覚めでもあって、画工から画家への深化過程なのかも。といって、文人画とはそもそも画家でない者の余技だったとは思いますが…。
やがて明の時代になりますと、前期には浙派、中期には呉派という画派(職業画家)が知られるようでして、それぞれの特徴は展示解説に曰くこのような。
- 浙派…素早い筆遣いと大胆な墨面の使用に特色のある大画面の山水人物画や装飾的な花鳥画で知られる。
- 呉派…独自の滋味溢れる筆墨法によって、奇を衒うことのない、ゆるぎない山水画を描いた。
とまあ、かような個性の違いがある…ようなのですが、何せ中国絵画をさほど見慣れていない者にとっては、全般的に(とまた大括りにしてしまうのは的はずれであろうところながら)非常に細かく、描き込みが多い、翻って余白が少ないあたり、日本の水墨画を思い浮かべてみますとずいぶんと異なっておるような。源流は中国に在り、のはずですけれどね。毛筆の筆運びの勢いで魅せるのとは違って、むしろ細密な写実は(上の説明では「写実を排して…」とはあるものの)宋代譲りではないの?と思ってしまうところでありましたよ。
実際、別室の下田歌子記念室の方で開催されていた『所蔵品による特集展示Ⅲ-近代の文人画を中心に』展の方にあった「江戸時代後期から近代までの文人画を中心とする作品」は「江戸時代後半以降、中国の文人に倣い日本でも詩文を修め書画に取り組む教養人が現れ、互いに交流し」たというものの、画風は至って日本らしい(という印象のある)ものでしたなあ。上のフライヤーにある作品の部分だけを見ても、余白を活かしているようすが窺えるにように思えます。余白に語らせることはいずこにもある考え方かもしれませんですが、結構日本人には馴染む文化なのかもと思ったりするのでありまして。
ということで、個人的には中国美術の世界に親しむまでには至っておりませんですが、本展開催趣旨にある「一助」にはなったろうかと。やたらに日本の書画と比べて云々するのでなくして、もそっと中国絵画そのものにまた向き合ってみようかと思ったものなのでありました。