夏場はイベントなどはあるも基本的にクラシック音楽の世界はオフシーズンと、数日前に東京オペラシティへオルガンを聴きに出かけたときに申したですが、音楽界がオフシーズンという以上に、あまりに暑い日が続く中では聴きに出かける側の方がすっかりオフに入ってもいたような。9月に入れば…という目算から予め活動開始を期して、あれこれの演奏会チケットを入手してあるわけでして、その中のひとつ、ミューザ川崎のランチタイムコンサートに出かけてきたのでありますよ。が、どうにもこうにも残暑が長いですなあ…。

 

 

毎度バリエーションに富んだ企画ものが聴ける、ミューザ川崎のランチタイムコンサートですけれど、今回はオルガンとオーボエのデュオという、これまた変わった取り合わせ。じゃじゃ~んという、ホールに響き渡るパイプオルガンに対抗して、オーボエ一本とは?!と思ったですが、聴いていて「うむ、遜色ない」と感じたのもアフタートークで、「音が大きい自分が呼ばれた」という種明かし。なるほど。

 

しかしまあ、何かしら音楽を聴いて毎度思うことではありますけれど、とある曲がとある記憶を呼び覚ますトリガーになるとしみじみと。場合によっては思い出したくもない記憶だったりもしましょうけれど、どういう作用であるのか、デジャヴ的な視覚要素でなくして、音楽には音楽の力があるようですなあ。

 

で、今回のトリガー曲はと申しますれば、アレッサンドロ・マルチェッロのオーボエ協奏曲二短調なのでして。なんでもこの曲を「J.S.バッハはヴァイマール時代にチェンバロソロ(BWV974)編曲」していたそうですが、「本日はこちらをオーボエとオルガンのために再編して演奏」するということでありましたよ。バッハはヴィヴァルディのヴァイオリン曲をいくつも編曲したりしてますけれど、マルチェッロの曲もまた…となると、この曲自体、当時からすでに有名曲となっていたのでもありましょう。

 

ところで、そんな曲が何を思い出させたのであるかと申しますれば、1枚のLPレコードのジャケットカバーでして、それを糸口にして、図書館からレコードを借りだしては貪るようにしていろんな曲を聴きまくっていた「あの時代」が蘇ってきた(きてしまった?)のでありますよ。1970年代の半ばくらいのこととなりましょうか、当時は演奏会に出かける金銭的余裕は無し、レコード(ちなみにCDの初出は1982年だったと)も次々買えるわけでもし、東京・銀座に近い数寄屋橋ショッピングセンター(当時)の中にあった(伝説的?)中古レコード店「ハンター」で厳選に厳選を重ねた上でようやっと手に入れるというくらい、個人的には貴重品であったのですよね。ですので、よりたくさん聴きたいとあれば、図書館からあれもこれもと借りだすのが簡便、最安の手段だったわけで。

 

こうなってきますと、ワルターのマーラー「巨人」やモーツァルト交響曲選集をを買ったのも、プレヴィンのホルスト「惑星」を手に入れたのも、ハンターであったなあということも思い出すわけですが、ここでは図書館の方のお話。かのマルチェッロのオーボエ協奏曲は、図書館から借りて来たバロック名曲集といったレコードに収録されていたのですな。確かフィリップスの廉価盤だったように思います。

 

とにかく闇雲に借り出していましたので、収録曲はほとんど聴いたことのないものばかり。当然にしてマルチェッロのこの曲も知らなかったわけですが、針を落として(レコードですから)聴き進むうち、「う~む~」と浸ることになった一曲でありましたよ。今回の演奏会プログラムでも「第2楽章は映画『ヴェニスの愛』(1970)で使用され有名にな」ったことが紹介されていますけれど、これは昔からこの曲のキャッチフレーズのようになってますな。今や映画『ヴェニスの愛』なる一作は忘れられた存在でもありましょうに…。

 

とまあ、そんな具合であたかも不慮の事故(例えが悪くてすいません)のような遭遇が、当時はたくさんあったなあとも思い出すわけですが、そうした思い掛けない遭遇、思いもよらぬ発見というのは、昨今ではその機会が稀になってもおりましょうか。音楽を聴くといって、CDも売れなくなっていている現在、すでに何かしら聴き知っている曲をダウンロードで一点買いするような時代になっておりましょうし。余計な曲(つまりは結果、はずれと思う曲)を排除してましょうし、検索傾向から「あなたにおすすめの曲」「あたなが気に入りそうな曲」というのが勝手に表示されて、それをたどっていく限りでは「狭く深く」はなりましょうけれど、「広く(でも浅く?」といった広がりは無いでしょうし。

 

ま、そうした傾向の良し悪しはともかく、これまた思い返せばかかる傾向の下に(音楽ばかりでない)あれこれを知ってきた経緯から、今があるのであるなあとしみじみ感じ入ったものなのでありますよ。何かしらの音楽を聴くという場合に、Youtubeでいくらでも聴きたい放題である現在の状況は、なるほど「便利になった」とは思う反面、これからレコードに針を落とすてなことで感じたわくわく感とでもいいましょうか、そうしたものは減じているのではなかろうかとも。

 

簡便になった点では映画鑑賞(映画館で見る場合以外の)も同様のような。この機会を逃すといつ見られるかわからないとこでもありませんですものね。一概に昔は良かったというつもりではなくして、昔は昔で思い返せばいい面と考えられなくもないこともあったし、今は確かに便利になったですが、その反面に牛われるものもあるような、そんな思い巡らしをしながら、演奏会から帰ってきたのでありました。